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オセアニア探検

(8)終の棲家(ついのすみか)  2011年9月1日刊行
林勲男(民族社会研究部准教授) 

ジョージ・ブラウン一家が住んでいた「キナワヌア」
シドニー郊外のゴードンに、「キナワヌア」という名の古い住宅がある。メソジスト教会宣教師ジョージ・ブラウン一家が住んでいた家である。「キナワヌア」とは、彼が赴任していた南太平洋の小さな島の地名に由来する。

玄関ホールの壁には、ブラウン一家の数枚の写真を収めたパネルが掛かっている。持ち主や住民は変わっても、建物の一部としてこれらの写真が受け継がれてきた。

その中で、私の目をとらえたのはジョージの隣に座った妻、リディアの姿である。ジョージは、自叙伝の中で夫唱婦随の関係を誇らしげに書き記しているが、リディアは決して夫のように布教の使命感に溢(あふ)れていたわけではない。

ここゴードンに居を構える少し前、ブラウン夫妻は布教先の島で2人の子供を病気で亡くしている。ジョージの長期出張中の出来事で、夫の帰宅を待つリディアの心情は推察するに余りある。

「キナワヌア」に住んでからというもの、リディアは夫に同伴して海外に行くことはほとんどなくなり、この家と家庭をひたすら護(まも)ったという。民博が所蔵する南太平洋の民族誌資料ジョージ・ブラウン・コレクションは、かつてここの一室に展示されていた。
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