国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from U.S.A.  2011年5月20日刊行
鈴木七美

● 『ヘルシー・エイジング』が目指すもの

4月にサンフランシスコで開かれたアメリカ高齢期学会の年次大会「アメリカにおけるエイジング Aging in America 2011」に参加した。3月にデンマークを訪れたときにも、「ヘルシー・エイジング」を掲げるいくつものプロジェクトに参加する人類学研究者が活躍していたが、この全米最大規模を誇るというアメリカの学会でも「ヘルシー・エイジング」は中心的なキーワードとなっていた。分科会のテーマとして、「多文化社会における高齢期」、「ライフロング・ラーニング(生涯学習)」、「ケア者へのケア」、そして車社会アメリカらしく「高齢期の交通」などが取り上げられている。「50+」(フィフティ・プラス)と表現される50代以上の人々の生活の質全般を検討しているのだが、それは、高齢の親をケアしたり子どもの心配をするという多世代と関わる人びとが、自らの生活空間を構想する作業に寄り添うことでもある。

毎朝8時から始まる数々の報告において明解に示された「ヘルシー・エイジング」の目的は、多様な文化的背景をもつ人びとが分断することなく価値観を共有し、生活空間としてのコミュニティ創出にあまねく参加する「クリエイティブ・エイジング」を実践できるよう包括的ケアを推進することである。「社会的包摂」の願いを込めた「エイジング・イン・ザ・コミュニティ」を目指そうという主張は、「エイジング・イン・プレイス」(住み慣れた場所で暮らす)の重視だけでなくこれを超える生き方として提示されている。そうしたコミュニティを創出するために、“resilience”(弾性・柔軟性)という観念・実践が重視されつつある。具体的実践を提示するワークショップのほとんどが「研究者+実践者」によって担われ、研究機関、NPOそして一般企業が協働する方途、すなわち「ブリッジ(架橋)」が模索され試みられている。高齢期を考えることはまさに生きる場所を問い直し創り続けることであり、その作業に参加しているという実感が学会にこれほどの熱気を与えているようだ。

鈴木七美(先端人類科学研究部教授)

◆関連ウェブサイト
アメリカ高齢期学会
アメリカ合衆国(日本外務省ホームページ)