国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

Ninja ~マレーシア~  2015年4月1日刊行
信田敏宏

先月リニューアルオープンした東南アジア展示場に、新たに展示された数体のマネキンをもうご覧いただいただろうか。マネキンたちはみな頭部に色とりどりのベールをかぶり、イスラームファッションに身を包んでいる。

近年の東南アジアでは、ベールを身につけたイスラーム教徒の女性を多く見かけるようになった。特に、マレーシアのイスラーム女性の衣服は、さまざまな形や柄があり、色彩も豊かである。テレビやファッション誌で紹介される流行のイスラームファッションを参考にオシャレをした女性たちが町をそぞろ歩き、熱帯マレーシアの雰囲気をいっそう華やかにしている。

昨年、ベール収集のためにマレーシアへ出かけた時のこと。男性の私は、ちょっとドキドキしながら婦人服店をのぞき、店員さんに声をかけてみた。運よく気のいい店員さんだったので、事情を話し、ベールのかぶり方などを教えてもらうことにした。

彼女は頭部だけのマネキンを使って実演を始めた。てっきりベールを巻き始めるものと思っていると、彼女はまず、マネキンの頭部から首にかけて、すっぽりおさまるように、伸縮性のある綿の帽子状の布をかぶせた。顔だけ出ているその奇妙な布について、「まるで日本の忍者のようだね」と冗談で言ったところ、「そうそう、これはninjaって言うのよ。よく知っているわね」と言われ、びっくり。

店員さんは、マネキンに白色のninjaをかぶせ、その上から赤色のベールを巻いた。ninjaをかぶると、髪の毛のおさまりもよく、ベールが巻きやすくなるそうである。おでこと首の部分はninjaが見えるので、ベールの色との組み合わせも楽しめるそうだ。巻き方は何種類もあるようで、流行の巻き方など、店員さんはいとも器用に次々とベールを巻いて見せてくれた。

ninjaは、その店だけで通じているマレー語なのかなと思っていたが、後日、ネットで調べてみると、ninjaという言葉はベール業界で広く使われていることがわかった。形をかえてマレーシアに現れたninja。それは、まさに忍法のような現れ方だった。

信田敏宏(文化資源研究センター教授)

◆関連写真

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マレーシアの婦人服店

◆関連ウェブサイト
マレーシア(日本国外務省ホームページ)