国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

改良韓服は語る  2020年2月1日刊行

太田心平

Tシャツにジーンズという服装は、世界中どこにでもみられるし、どこの国のものだともいえない。そんなふうに、21世紀には人びとの衣服に文化の差がなくなっていくのか。いや、なげくのはまだ早い。伝統「的」な服飾文化は、生きているのである。

 

韓国の改良韓服(ケリャン・ハンボク)は、その良い例だ。韓国の伝統服といえば、日本ではチマチョゴリと呼ばれる女性服や、パジチョゴリと呼ばれる男性服が有名だ。あるいは、韓国ドラマの歴史劇にみられる朝鮮王朝の官吏や女官の服装や、平民の白い平服(中国から白衣民族と呼ばれたほど)も、読者の脳裏に浮かぶかもしれない。だが、そうした伝統服は、デザインも機能性も、現代生活に相応しいといえない。

 

その発想から生まれた改良韓服は、生活韓服(センファル・ハンボク)とも呼ばれ、民族文化を再評価する社会運動と連動し、韓国で90年代から広まってきた。着る手間がかかる結び紐の替わりに、ボタンやファスナーなどを取り入れ、外来のズボンやスカート、シャツやジャケットの構造からもヒントをえている。色使いも、朝鮮王朝では原色に近い鮮やかな色を、しかも対照色で合わせるのが良しとされたのに対し、改良韓服は淡い色合いや、同系色によるコーディネートも好まれる。オートクチュールで仕立てれば1そろえ十数万円にまでなるが、それでも寺参りに熱心な人や、伝統芸能を習う人のあいだで人気がある。もちろん、より安価な既製服もあるし、上下セットのスウェットのような室内着用まである。

 

「あんなもの、伝統でも何でもない」と嫌う人だっている。しかし、そもそも上述のような伝統服は、朝鮮王朝中~後期を基準に固定された服飾であり、それ以前のものとは違う。ならば、それから200年以上も経った現代には、別の感覚のデザイン、別の技術の機能性をもつ伝統「的」服飾文化があっても、決しておかしくない。

 

伝統って、何だろう。

 

太田心平(国立民族学博物館准教授)

 

◆関連写真

本館の常設展示「朝鮮半島の文化」の改良(生活)韓服は、2月20日に増補予定


 

◆関連ウェブサイト

ソウルナビ「伝統韓服vs改良韓服」

韓国国立民俗博物館『韓国民俗百科事典』「改良韓服」(ハングル)