国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

臨時休館中の展示場で〜メキシコの「アレブリヘ」の新着資料  2020年6月1日刊行

鈴木紀

国立民族学博物館は本年2月28日から臨時休館中である。一般の見学が停止されていた3月の中旬、アメリカ展示場で小規模な改修作業が完了した。これによりメキシコの「アレブリヘ」コーナーに新しい資料が加わった。

 

「アレブリヘ」はメキシコのアルテ・ポプラル(芸術的な手工芸品)の一つで、空想的な動物を描いたものである。中でも、顔はヒト、体は動物の木彫「ナワル」は印象的で、みんぱくの代表的なキャラクターの一つとしてポスターやカレンダーに描かれたり、オリジナル・グッズのデザインに用いられたりしている。

 

今回の改修のポイントは、「アレブリヘ」の由来を明示したことである。「アレブリヘ」は、もともとメキシコ市の紙人形職人ペドロ・リナーレス氏(1906-1992)が考案したものだ。幼い頃に夢でみた動物の姿を、大人になってから紙人形で表現し、「アレブリヘ」と名付けた。その独特な造形が評判となり、ペドロ本人や、その家族、弟子たちの作品はメキシコ内外のコレクターの垂涎の的になっている。これに対し、これまでみんぱくの「アレブリヘ」 コーナーに展示していたのは、メキシコ南部のオアハカ州で作られた動物の木彫である。こちらもユーモラスな表情とカラフルな色づかいに特徴があり、空想的な動物の表現という意味ではメキシコ市の紙人形と同じだ。そのためオアハカの木彫も「アレブリヘ」と呼ばれている。今回、こうしたいきさつを示すため、「アレブリヘ」コーナーにメキシコ市で作られた紙製の「アレブリヘ」2点を追加した。1点はペドロの孫のダビド・リナーレス氏、もう1点はペドロのひ孫のペドロ・ダニエル・リナーレス氏が制作したものである。彼らと、彼らが敬愛する元祖のペドロ氏の写真も展示した。

 

この改修にあわせて、人気の「ナワル」にも新顔が登場した。ナワルとは、シャーマンが変身した動物のことである。従来の「ナワル」は赤いヤギの姿だったが、今回の「ナワル」は緑色のコヨーテである。どちらも顔はヒトで、長いヒゲをはやしている。これからは「赤ナワル」、「緑ナワル」と呼んで、両者を区別していただきたい。

 

これらの新資料は、昨年春にメキシコで収集され、夏に来日した。今春、日本デビューのはずだったが、臨時休館でそれが延期になっている。新着「アレブリヘ」たちも、みんぱく再開を心待ちにしているに違いない。

 

鈴木紀(国立民族学博物館教授)

 

◆関連写真

新着の紙製「アレブリヘ」


 

コヨーテに変身したシャーマンを描いた木彫「ナワル」