国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

モンゴルがヒップホップ大国だという件  2021年2月1日刊行

島村一平

突然だが、現在、モンゴル国ではヒップホップ(ラップ・ミュージック)が凄いことになっていることをご存じだろうか。人口330万人の国なのに、ヒップホップの曲が、Youtube動画再生回数で百万回を超えることも珍しくない。中には再生1千万回超えの曲もある。

 

このようなヒップホップは、モンゴルの「固有の文化」と呼べるくらい進化をとげている。例えば、モンゴル語ラップは、子音が三音以上連結することも珍しくなく、英語ラップに匹敵するような速さと韻踏みの技術をもっている。さらにペンタトニック音階(民謡音階)のビートに合わせてラップすることも少なくなく、エスニック・ヒップホップの様相すら呈している。例えば、以下の曲などが好例である。
MONGOLIAN HIP HOP RAP ARTISTS - TOONOT [Official Video]

 

レゲエがジャマイカという国の代名詞であるように、ヒップホップがモンゴルの代名詞だと言われる日も近いのではないか、と思えるくらいである。その背景には、複雑な韻踏みを特徴とする口承文芸の伝統があった。この韻踏みの伝統は、学校教育にも引き継がれている。

 

ただしヒップホップ・カルチャーがざわめく国であるといった場合、単に一過性の流行として盛り上がっていることを意味しない。そもそもヒップホップはアメリカの黒人たちの社会矛盾に対する叫び声として始まった。モンゴルにおいてもヒップホップが支持されるには、それだけ貧富の差などの社会問題が前景化していることを意味している。モンゴルのラッパーたちは、鋭い批判精神で社会格差や政治の腐敗をえぐり出す。

 

筆者は近く、そんなヒップホップがつむぎだすモンゴル社会の姿を扱った著書『ヒップホップ・モンゴリア―韻がつむぐ人類学』(青土社)を刊行する。今までとは異なるモンゴル像がそこにある。

 

島村一平(国立民族学博物館准教授)

 

◆関連写真

遊牧民出身のラッパー、Desant。 2018年 ウランバートル市 本人提供

 

◆関連ウェブサイト

 青土社による同書のページ