国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2011年2月26日(土)
あなたなしでは生きていけない
研究領域「包摂と自律の人間学」

国立民族学博物館では、2009年秋から開始した機関研究<包摂と自律の人間学>のテーマにあわせて、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を始めました。第2期は<国境と民族>をキーワードに映画上映を展開しています。今回は、台湾を舞台に法的身分のない子どもを描いた「あなたなしでは生きていけない」を上映します。この映画とともに翌日は国際シンポジウム「世界における無国籍者の人権と支援・日本の課題」を企画しています。世界や日本における無国籍の人びとの人権とその実態に迫り、グローバルな支援のあり方について、みなさんと一緒に考えたいと思います。

  • 日 時:2011年2月26日(土) 13:30~16:00(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    • 整理券は10:00より講堂入口にて配布いたします。
    • 事前申込は不要です。
  • 参加料:無料(ただし、本館展示をご覧になる方は観覧料が必要です。)
  • 主 催:国立民族学博物館
  • 協力:福岡市総合図書館/アジアフォーカス・福岡国際映画祭/派對園電影有限公司/原子映象有限公司
  • チラシダウンロード[PDF:1.7MB]

みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律> 第9回上映会

「あなたなしでは生きていけない」不能沒有你 / No Puedo Vivir Sin Ti / Cannot live without you
日本劇場未公開作・関西初上映
2009年/台湾映画/中国語(普通語・台湾語・客家語)/モノクロ/92分/日本語・英語字幕つき
【開催日】2011年2月26日(土) 13:30~16:00(開場13:00)
【監督】戴立忍(レオン・ダイ)
【出演】陳文彬(チェン・ウェンピン)/趙祐萱(チャオ・ヨウシュエン)
【司会】陳天璽(国立民族学博物館・先端人類科学研究部准教授)
【解説】野林厚志(国立民族学博物館・研究戦略センター准教授)
     月田みづえ(昭和女子大学・人間社会学部福祉社会学科教授)
「映画解説」

日雇い労働者の父と学齢期を迎える娘の父子家庭を通し、厳然と立ちはだかる法や制度の壁と父娘のしずかな愛を描いた映画。モノクロゆえ一見地味なようだが、ストーリーがじわじわと体にしみわたり、いつの間にか色彩が浮き出てくるような後味深い感動作。
出生届が出されなかったために「存在しない子」となり、就学、医療など基本的な権利が享受できないという問題は、フィクションの世界にとどまらない。国家が戸籍や国籍によって個人を管理する現代、実は世界各地さまざまな形で起こっている。日本も例外ではない。日本に生きる無戸籍・無国籍児は、いかに発生し、日々どう生きているのだろうか。同じ社会にいる私たちはこの問題をどう受けとめるべきなのだろうか。
個人あってこその社会か、社会が認めてはじめて個人は「存在」するのか。そんな問いを投げかけた映画である。(陳天璽)

[台湾社会の縮図]

50年間に及ぶ日本統治の後、台湾は大陸中国からやってきた国民党政権による施政下におかれた。そこでは、立法議員(国会議員)をはじめとする政治家や警察、軍隊といった権力組織が、時には制度をこえて市民生活に影響を与える状況が生じていった。もともと縁故を重んじ、信用関係を基盤とする漢族社会に、集中的な権力構造がくみこまれた結果、台湾はいわゆる「コネ」社会の性格を帯びていく。同時に、中央と地方とでは「コネ」の筋も異なる。中央が外省人中心の社会であるのに対し、地方は本省人中心の社会となってきたからだ。
一方、台湾は国連から脱退し国際政治上、孤立するものの、巧みな外交戦略と力強い経済活動を頼りに、世界屈指の経済成長をとげた。その裏では社会内部における経済格差が生じていく。経済的に優位な家庭の子どもは充実した教育を受ける機会に恵まれ、彼らに社会的、経済的に優位な位置とそれにもとづくネットワークを保証する強固な学歴社会が生みだされていった。
無学で貧しい父親が娘を小学校に入学させるために、かすかなコネを頼りに奔走する姿を描いたこの映画は、台湾社会の縮図と言える作品となっているのである。(野林厚志)

「包摂と自律の人間学―国境と民族を越えて―」国立民族学博物館 陳天璽

地球人口が68億人である今日、生地を離れ他国に暮らす移民は2億人に上がり、全人口の約30人に1人にあたります。国境は、人の頻繁な 越境や情報化により、その存在が薄まっているように思えます。民族間の交流や国際結婚も増え、人を民族や国籍別に区別することも難しくなっています。しかし、現代社会は国家や民族、宗教によって人を分類するきらいがあるのも事実です。それゆえ、はざまにおかれ苦悩を抱えながら生きている人は少なくありません。人の違いを認めて包摂し、移民や無国籍者など社会的マイノリティーが自分らしさを生かして自律できる社会を実現するには、どうすればよいのでしょうか。映画に描かれる一人一人の生き様を通して、国家とは、国籍とは、民族とはなにかについて考え、国境を越えた人と人のつながり、支援のありかたを模索します。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 広報企画室企画連携係
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel: 06-6878-8210(平日9:00~17:00)