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みんぱく世界の旅

アメリカ先住民ホピ(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年1月10日刊行
伊藤敦規(国立民族学博物館助教)

ホピの人びとがさいばいしているトウモロコシ畑
おいのりで雨雲呼ぶ

アメリカ南西部のアリゾナ州北東部。世界遺産に登録されているグランドキャニオンから東へ150キロメートルほどのところに、先住民ホピの保留地(住んでいる場所)があります。そこは標高2000メートルのかんそうした土地です。ホピの人口は約1万人。彼らはトウモロコシなどを育てて暮らしています。

ホピの地で年間に降る雨の量は300ミリメートルほど。これは日本で台風や集中豪雨があれば、1晩か2晩で降る雨量と同じです。その程度の年間降雨量にもかかわらず、伝統的に農耕をしてきました。ホピの人々はかんがい(水を引く)施設を整備するとか、近代的な機械にたよって雨水を確保するのではなく、いのりによって畑に雨雲を呼び寄せます。雨雲を呼び寄せるいのりは、大人数で行う儀礼という形式の場合から、日常的なものまで多様です。

願いはかなう


カチーナをかたどった木彫人形(シ-セル・ケルニンプテワ・ジュニア作、アナグマのカチーナ)=民博所蔵

たとえば彼らは、雨雲とは精霊とか自分たちの祖先の化身、つまり姿を変えたものと認識しています。ですので、そうした精霊や祖先を祭る儀礼を行うと、彼らが雨雲の姿で村落や畑にやってきて雨をもたらしてくれると考えています。不思議なことに、大規模な儀礼を開催すると、必ずといっていいほどその最中に雨が降ります。

カチーナ儀礼は冬至から夏至までの約半年間にわたって、保留地内の13の村落でそれぞれ行われます。カチーナ儀礼は仮面儀礼ですが、それとは別に仮面を付けないで人間が主人公になる儀礼も存在します。ソーシャルダンスと呼ばれるものです。日本語で社交ダンスという言葉で親しまれているたぐいのものではなく、ホピのソーシャルダンスはあくまでも雨や雪や湿気をもたらすためのいのり、つまり儀礼の一種として開催されます。男性が中心となって行うカチーナ儀礼に対して、女性が中心的な役割を担うことから「少女のダンス」と呼ばれることもあります。


ホピの人々は雨雲をいのりで呼び寄せます
 

一口メモ

「トウモロコシ」
ホピの人々の主食はトウモロコシです。トウモロコシはいまでは世界中でさいばいされていますが、原産地はアメリカ大陸です。他にもジャガイモやトマトなどがアメリカ大陸原産です。大航海時代以降に旧大陸(ヨーロッパ、アジア、アフリカ)に伝えられました。

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