国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

博物館の怪物たち(1) 『毎日小学生新聞』掲載 2017年1月14日刊行
山中由里子(国立民族学博物館准教授)
古代から人間に共通する「博物学的思考」

百科全書の知識が地図上に反映された江戸時代後期の「万国人物図絵」。「大日本」の周辺には、「小人国」「長脚国」など不思議な民族が描かれています。

図鑑で不思議な昆虫や動物、恐竜の絵を見ながら、その習性について知るのが大好き、という人はみなさんの中にもいるのではないでしょうか。

人類の心の進化を研究する認知科学者たちは、人間には生き物の情報をゲットし、描いたり書きとめたりして、何らかの規則性にのっとって分類する行いが共通しているといいます。

ゲームやアニメの「ポケモン」「妖怪ウォッチ」、映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」など、いろいろな姿形をして、それぞれ特殊なパワーを持った怪物を集めるゲームや物語が楽しいのは、こうした「博物学的思考」が何万年もかけて脳の回路に組み込まれてきたからかもしれません。

 

13世紀にカズウィーニーによってアラビア語で編さんされた百科全書『被造物の驚異』のペルシア語訳(1892年)。一番下の図は象を食べる竜=写真の資料はすべて国立民族学博物館蔵

ありとあらゆる動植物、鉱物、天体、自然現象などを分類して、記録した「自然誌」のたぐいは、洋の東西を問わず、古代から中世、近世にかけて書かれてきました。珍しいものをこの目で見たい、集めたいという願望は人を動かし、人魚、竜、一角獣、グリフィン、フェニックス、マンドレイクなどに関する知識も、自然誌の一部として伝えられました。当時の人々はこうした怪物たちも、この世のどこかに本当に存在していて、いつかは見つかるかもしれないと思っていたんですね。

しかし近代に入ると、科学的に証明できない生き物たちは、自然ではないものとみなされてしまいます。地球上のどこにも結局いないじゃないか、となった怪物たちは、今やファンタジーの世界でのみ生き続けています。

 

一口メモ

自然誌は自然に存在するさまざまな民族、動植物、鉱物、天体、自然現象の知識を集めて、整理分類した百科全書のような書物です。

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