国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国は今(2) ─大量生産される民族文化─

異文化を学ぶ


中国との国境に近いベトナムの山奥にあるモン(苗)族の村を3年ぶりに訪ねた。めざましい経済発展を背景に道路事情がよくなり、格段に近く感じられた一方、女性たちは以前とかわらず、ろうけつ染めとパッチワークと刺繍(ししゅう)で装飾された色鮮やかなスカートを身につけている。と思ったら、「おやっ」と首をかしげた。質感がどこか従来とは違う。なんとモン族の伝統衣装風のプリント布だった。あとで地域の市場に行くと、同じ布がたくさん売られていた。それを裁断してスカートも作られるのだ。中国からの輸入品で、約5年前からその存在は知っていたが、これほど流行するとは思っていなかった。

モン族は中国から東南アジアにかけて1000万人も居住している。どんな田舎にも市場経済化と情報化の波が押し寄せ、中国からの流通事情もよくなった現在、モン族だけを対象に生産しても、利益が見込めるわけだ。

衣料品を安価な消耗品と考えている先進国にいると、こうした伝統の変化を憂えたい気持ちにもなる。しかし、産業革命が紡績業から始まったように、手作りの布生産からの解放は長い間、人々の悲願だった。モン族にとってもこのプリント布は、安くて色落ちせず、すぐ乾き、しかも自分たちのデザインも表現してくれる画期的商品だったにちがいない。

国立民族学博物館 樫永真佐夫
毎日新聞夕刊(2008年2月13日)に掲載