国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

伝統芸能最前線(6) ─ 掛け合い歌 ─

異文化を学ぶ


ネパールの首都カトマンズ。ナイトライフが少ないこの町で、音楽と歓声がもれてくる店がある。ドホリー・レストランだ。ドホリーとは男女が恋愛歌を掛け合う伝統芸能である。

ステージ上の女性歌手に、男性客が生演奏の音楽に乗せて歌を投げかける。歌の上手下手は二の次だ。むしろ、いかに挑発的な歌詞をつむぎ、女性に返歌を窮させるかが見せ所だ。もっともプロの歌手は手練手管には慣れたもの。客を持ち上げては、するりとかわす歌詞で応じ、酔客の笑いをとる。

歌う客の多くはドホリーの心得がある地方出身者だ。さもなければとっさに気が利いた歌詞など作れるものではない。都会に小さな居場所を見つけた彼らは、地元男性の羨望(せんぼう)を集めながら今夜もまたマイクを握る。

国立民族学博物館 南 真木人

毎日新聞夕刊(2006年3月8日)に掲載