国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

いきいき五感力(3) ─ 音がきざむ時と空間 ─

異文化を学ぶ


ドイツの街を歩いていると、教会や市庁舎から定期的に鐘の音が聞こえてくる。15分おきの時鐘の種類と回数を聞き取れば、時計を持たずとも時間がちゃんとわかる。例えば、キンコン、キンコン、キンコン、キンコンが4回、続いて2回ゴーン、ゴーンと鳴ったら2時ちょうど。

最初に鳴る鐘の数が1回なら15分過ぎ、2回なら30分過ぎ、3回なら45分過ぎ、4回で正時。正時には続いて鳴る別の鐘が何時かを示す。音色は同じ街でも場所によって微妙に違う。つまり、時間的にも空間的にも、耳を澄ませば自分の位置を確認できるのである。

観光客は広場のからくり時計の視覚的スペクタクルに目を奪われるが、地味ながら律儀に人々の生活のリズムを刻み続ける音に、ドイツ人の実直さを感じる。


国立民族学博物館 山中由里子

毎日新聞夕刊(2006年4月19日)に掲載