国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(4)ネパールのビール瓶  2010年6月23日刊行
南真木人(文化資源研究センター准教授)

エベレストビールで乾杯

「ネパールのビール」というすてきなエッセーがある。が、こちらはビール瓶の話だ。ビール瓶といえば、日本では633ミリリットルのいわゆる大瓶をさす。思えばあの大きさ、ビールを酌み交わすのに何と適していることか。一升瓶では重いし、小瓶ではすぐに空になって大忙しだろう。

世界を見わたすと、ビールは小瓶が主流で、大瓶はまず見かけない。例外は、酌の文化がある中国や韓国くらいか。

実はネパールのビール瓶も、日本のものとそっくりの大瓶だ。ただし、ネパールには1本のビールをつぎ合う文化がない。そのため友人と飲みに行くと、人数分のビールが注文され、各自の前にそれぞれの大瓶とグラスが並ぶことになる。私など日本の感覚でつい「ぬるくなるし、とりあえず2本にしておけば」と言ってしまうが、「4人いるのに、誰が飲まないわけ?」と詰問されてしまう。

ネパールの国産ビール生産はドイツの技術協力で始まったと聞く。だが、瓶と瓶詰め機械については中国製を導入したようだ。大瓶を選んだ理由は、ビールを酌み交すためではない。在来のどぶろくの飲み方からして、ネパール人には小瓶では全然足りないことが明白だったからだろう。

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