国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

特別な日の過ごし方

(2)新郎は辛労を越え  2010年12月8日刊行
陳天璽(先端人類科学研究部准教授)

「囍(双喜)」と書かれた紅包
中国系の人々にとって結婚は人生の一大慶事。結婚式と披露宴は数百人集まる大会場で派手に行われるのが通例だ。親族はもちろん、友人知人が集まり、朝から晩まで派手にそして少々のいたずらをまじえて過ごす。祝いに獅子舞をするなど、宴自体見応えあるが、実は、結婚当日の朝晩の過ごし方が面白い。

朝、新郎は新婦を迎えに行くが、新婦側の親族はそう簡単に通してはくれない。新婦のもとに辿(たど)り着くまで、邪魔する親族や友人に懇願しながら両家の喜が一つになることを表す「囍(双喜)」と書かれた「紅包(ホンパオ)」(祝儀)を配り歩く。新郎は新婦を娶(めと)るため、皆を喜ばせ、認められねばならない。

新婚初夜。二人きりで静かに甘い夜を過ごしたいところだがさにあらず。友人たちが愛の巣へいたずらに来る。「鬧洞房(ナオドンファン)」だ。「鬧洞房」は古来、新婚夫婦の新居の邪気を払い陽気な雰囲気を充満させるために行われたそうだ。新郎新婦はなんでも言われたとおりにしなければなればならず、さもないと男性友人に新婦の初接吻(せっぷん)を奪われてしまうこともある。新郎としては必死だ。

新郎は辛労を乗り越え、やっと皆に認められ、本当の愛に辿り着くのだ。
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