国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

くつろぐ

(8)ハンモックにゆられて  2011年5月19日刊行
齋藤晃(先端人類科学研究部准教授)

アマゾンの夕暮れ
ハンモックはアメリカの先住民の発明である。15世紀末にヨーロッパ人がやってきたとき、ハンモックはカリブ海、中米、南米一帯で使用されていた。とりわ けアマゾン川流域に広まっており、ヨーロッパ人の記録にもたびたび登場する。そこでは、先住民の貧相な物質文化への侮蔑(ぶべつ)の念と、風変わりな寝具への好奇の念が入り交じっている。

ハンモックは熱帯低地の暮らしにみごとに適合している。軽量でかさばらないこの寝具は、移動生活にもってこいである。しかも、木が2本あれば、どこでもつ るすことができる。さらに、風通しがいいので、高温多湿でも快適にくつろげる。地面の湿気や有害な小動物からも身を守ってくれる。

北国生まれのわたしにとって、アマゾンは暮らしやすい環境ではないが、ハンモックに身を横たえるときは、数少ないくつろぎのひとときだった。とりわけ、夕 暮れどき、川で水浴びしたあと、家の軒下で暮れゆく空を見上げながら、ハンモックのゆれに身をまかせるのが好きだった。友人たちと語らいながら、いつのまにか時を忘れ、ふと空を見上げると、満天の星空が輝いている。ハンモックは、そんな幸福なひとときを演出してくれた。
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