国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(7)アイヌ文様  2011年10月20日刊行
岸上伸啓(先端人類科学研究部教授)

タペストリー「モシリII」(1993年、川村則子作) =国立民族学博物館提供
北アメリカの北西海岸地域に住む先住諸民族は、銅板や儀礼用ブランケットなどに、独特な文様を組み合わせたり、分割させたりして、動物や人の姿を左右対称に表現してきた。  

資料の調査に基づいて、本を出版される方もいれば、自分たちの祖先の手になる遺産を複製し、卓抜な意匠や優れた技術を継承していかれる方もいる。 

日本の先住民族アイヌが、今から100年以上前に製作したアットウシ(樹皮製衣)、木綿衣、小刀鞘(さや)、木盆、前掛け、帯、脚半などにも、ルビ、括弧(かっこ)文や渦巻き文などを左右対称に巧みに組み合わせた美しい幾何学文様が描き出されている。これらに見られる対称性は、美的感覚を呼び起こす普遍的な仕掛けかもしれない。  

アイヌは、古くから北方のサハリンやアムール川流域の諸民族や南の本州からの影響を受けつつ、独特な文様を創つくり出してきた。それは民族の独自性を示している。グローバル化によって文化の混交が進む現代でも、アイヌ文様は、アイヌの工芸家に受け継がれるとともに、新しいアイヌ工芸の創造の素材ともなっている。  

開催中のみんぱく特別展では、アイヌ文様を昔の衣服の背の部分やえり、そでとともに、現代のタペストリーなどに見ることができる。そしてアイヌ文様が民族の象徴として今でも躍動していることを実感することができる。
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