国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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アメリカ大陸の物作り

(2)イヌイットの版画  2012年1月19日刊行
岸上伸啓(国立民族学博物館教授)

J・カキー作「クジラ猟」1983年=国立民族学博物館提供

カナダ極北地域の狩猟民イヌイットは、版画作りのアーティストとしても有名だ。1950年代末から彼らは、極地に生息するホッキョクグマなどの生き物や伝統的な狩猟活動、神話のモチーフを版画に刷った。

この版画制作の導入には、40年代末から石製彫刻品制作をイヌイットに奨励したジェームズ・ヒューストンというカナダ人が深く関与していた。彼は、58年末から59年初めにかけて来日し、版画家平塚運一のもとで版画を学ぶとともに、民芸運動の作家とも親交を温めた。

ヒューストンは浮世絵からヒントを得て、原画を描く人と彫る人、刷る人からなる分業体制、落款、和紙の使用をイヌイットに紹介した。このようにイヌイットの版画制作には日本の伝統が深く関わっているのである。

イヌイットが版画を始めた動機は、単純に現金を稼ぐためであった。その現金でガソリンや銃弾などを購入し、彼らが望む狩猟活動やキャンプ生活を続けることができた。さらに、自らの伝統的文化を描き出すことはアイデンティティーの維持にも役立った。

イヌイットの版画制作は、彼らの生活と文化を維持させ、活性化させたのである。

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