国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

アメリカ大陸の物作り

(7)アーミッシュキルト  2012年2月23日刊行
鈴木七美(国立民族学博物館教授)

アーミッシュ・クリブ・キルト 製作地=インディアナ州 1920年ごろ 国立民族学博物館所蔵

キリスト教プロテスタント再洗礼派の人々の生活にはキルトが深く関わっている。布の最後のかたちとしての切れ端を繋(つな)げ生活用品として生まれ変わったキルトは、アメリカ大陸に移民してきた人々の生きる姿勢のシンボルでもあった。人生の節目を迎える人や出立する人への贈りもの、被災地への支援品を仕上げるために、人々は日々集まってこつこつと針を運んでいる。

なかでも一つのジャンルとして知られているのは、聖書の解釈に従って生活規範を守り続けるグループが製作するアーミッシュキルトだ。謙遜(けんそん)・控えめであることを重視している人々は、決まった色の無地の布を用いた衣服を着用し、この布のみを使用したキルトが、人々の信念を表現するものとなっている。

誕生する子どものために特別につくられる小さなクリブ(子ども用寝台)キルトも単色の布が用いられるが、配色やシンメトリー、モチーフに心を配り丹念に縫い合わされ、豊かなキルティングが施される。写真のキルトのモチーフはモンキーレンチ。馬車を使い続ける人々の必需品、バギーレンチ(車輪を固定する道具)からの発想だ。共に過ごす時を大切にしている人々は、子どもと馬車で駆ける日を楽しみに待っている。

シリーズの他のコラムを読む
(1)自家製と既製 齋藤晃
(2)イヌイットの版画 岸上伸啓
(3)暦を誇りに 八杉佳穂
(4)ルーツを描く 鈴木紀
(5)「古代」生かした土器 関雄二
(6)コーヒーより人を 中牧弘允
(7)アーミッシュキルト 鈴木七美
(8)作家として母として 伊藤敦規