国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

鉄路叙景

(3)火の車並みの苦労でも  2012年11月15日刊行
塚田誠之(国立民族学博物館教授)

中国南部の柳州駅にて。物売りがパン、豚肉の煮つけ、飲み物などを売る=筆者撮影

中国では鉄道列車を「火車」と呼ぶ。その語源となった蒸気機関車は今やほとんど見られなくなったが。近年、青蔵鉄道や北京―上海、北京―香港を結ぶ新型高速鉄道が運行されるようになり注目を集めている。

私は鉄道ファンだが、中国の鉄道にはしばらく乗っていない。時間的制約のある実地調査の場合、飛行機利用と現地での車のチャーターのほうが便利だからだ。

鉄道の欠点は今も昔も変わらない。切符の購入・乗車の際に駅に集まる膨大な人々をかき分けねばならない。携帯荷物のX線検査がある。発車直前にならないとプラットホームに入ることができずに待たされる等々、乗るまでが一苦労だ。

長距離列車の場合、排せつ物を垂れ流す黄害防止のため駅に停車する度に車掌がトイレに鍵をかけてしまうが、主要駅の場合、停車時間がやたら長い。また、荷物の盗難に遭う心配がある。

旅の楽しみの一つである駅弁にしても、広州の「焼鵞飯(シャオウォーファン)」(ガチョウのロースト弁当)など少数のものの他は、肉野菜炒めのぶっかけ飯弁当くらいで、バリエーションに欠ける。乗客も心得ており、カップ麺などを持参している。

このような苦労があるのに、いつか再びゆっくり乗りたいと思うのだから不思議なものだ。

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