国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

緑薫る

(7)雨を待つ  2013年6月13日刊行
竹沢尚一郎(国立民族学博物館教授)

集団漁は豊作と豊漁を祈る重要な行事=アフリカのサバンナの沼で、筆者撮影

暑い、暑い。とにかく暑い。

サハラ砂漠の南側、サバンナと呼ばれる地域が一番暑いのは3月から5月にかけてである。一日の最高気温は平均45度。50度を超すことも珍しくない。とはいえ、空気は乾燥しているので発汗作用がある。日陰の風通しの良いところにいれば、40度台なら問題ない。 

しかし50度を超えるともういけない。お昼ごろには、日陰にいても意識はもうろうとしてくる。風邪で体温があがった状態といえばおわかりだろう。

そんな時期でも人々の活動がやむことはない。というより、6月に始まる雨期の直前のこの時期は、宗教活動が一番忙しくなる時期である。

仮面で有名なドゴン人社会では、亡くなった死者の霊を弔うための仮面儀礼がおこなわれる。色とりどりの仮面が踊ることで、死者の霊をなだめ、先祖の住む国へと送り届けるのである。一方、ニジェール川沿いの村々では集団漁がおこなわれる。手網をもった男たちが集まって魚を追う、一年の農業の吉凶を占う重要な行事である。

これらの行事が終わると、雨期を待つばかり。最初の雨と共に、緑は芽吹き、カエルは鳴き始めるだろう。サバンナに生命を復活させる雨が台風のような風と共にやってくるのを、人びとは待ち焦がれるのだ。

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