国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

よそ者?

(7)居心地悪くつらくても  2013年11月28日刊行
新免光比呂(国立民族学博物館准教授)

村の風景は美しい=ルーマニアのマラムレシュ地方で、筆者撮影

調査のためと称して村に入るのはいつも居心地が悪い。他人の生活のなかに土足で入り込み、しつこい質問でうんざりさせるからだ。嫌だと思っても、やめるわけにもいかない。

ルーマニア、マラムレシュ地方の村で長く暮らした時も、そんな思いにとらわれた。地域の民俗博物館館長に紹介されたはいいが、個人的なつながりがまったくない。「それじゃがんばって」と言われて村にある一軒の家の前で車から降ろされ、一人たたずんだ。

滞在先の家族とようやく馴染(なじ)んだところで隣家を訪ねる。さらに村の教会でミサに出席し、知り合った信者の家に伺う。ほとんどの村人は愛想よく迎えてくれるが、時として相性が悪い人もいる。それもしかたがないと自分を慰めるが、やはりつらいものである。

しだいに村にも慣れ、思わぬ事情を知る羽目になる。村落内の宗派対立だ。同じキリスト教なのに家族同士ももめている。いろいろな人と親しくなるが、それぞれの立場からの打ち明け話を聞かされ困惑する。未熟な若輩者は返す言葉を知らず、冷静に話を聞いて調査資料が得られたと喜ぶほどすれてもいない。

だが出発の日に村は違った姿を示す。いつの間にか心に村の暮らしが心に馴染み、感傷はいつまでも消えない。

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