国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

冬を楽しむ

(2)蜂蜜売りが来るころ  2013年12月19日刊行
横山廣子(国立民族学博物館准教授)

(上)冬至の日のペー族の餅つき(下)贈答用に赤い切り紙を添えた餅=中国雲南省で1985年、筆者撮影

20年以上も前、中国の昆明で懇意にしていた先生が突然、シェパードを飼い始めた。毛並みの美しさを褒めたら、冬至に食べますと言われてしまった。冬至に犬や羊の肉など滋養のある食べ物を食べる習慣は、現在も中国各地で見られる。

雲南省大理の少数民族、ペー族の冬至につきものの食べ物は、餅である。漢民族が正月に食べる餅は通例、もち米粉をこねて蒸すが、ペー族の冬至の餅は日本と同様に、もち米を蒸して臼と杵(きね)でつく。それを丸いのし餅にする。息子が婚約している家では、赤い切り紙細工をあしらった餅を何枚も婚約者の家に届ける。親族もそのお裾分けに預かる。代わりに、うるち米を餅のようについてつくる「餌塊(アークヮイ)」を食べる家も多い。

私がペー族の村で冬至を過ごしたのは1980年代半ばの1回だけ。冬至が近づく頃、村に蜂蜜売りがやって来た。その蜂蜜を少し焼いた餅につけて食べると、深い甘みについ顔がほころんだ。

最近は家で餅はつかず、もち米を近所の業者に持ち込んで機械でついてもらう。豊かになり、贈答習慣は前より派手になった。しかし瓶詰めで常に売られるようになった蜂蜜は、「混ぜ物が多い」と人気がない。楽しみが一つ減ってしまったような気がする。

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