国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

父親

(5)漁師としての英才教育  2014年12月18日刊行
飯田卓(国立民族学博物館准教授)

船に帆を張るのも漁師の基本技術=マダガスカル南西海岸部で3月、筆者撮影

マダガスカル南西海岸部に住むヴェズの父親たちは、息子が大きくなると、漁を手伝わせるため海に連れて行く。「早くヴェズにするため」だそうだ。

ヴェズの人たちは、村落部に住む他の多くのマダガスカル人と異なり、農業を営むことは少なく漁業をなりわいとする人が多い。「ヴェズにする」というのは、一人前の漁師にするという程度の意味だろう。それくらい、漁村では、大きくなると漁師の仕事をするのが当然になっているのだ。

とはいえ、父親は、漁に連れて行った息子に手とり足とり教えることは少ないようだ。「あれをしろ」「これをしろ」と指示はするが、うまくできたからといって褒めたりはしない。できなければ、やり直したり処置したりするよう指示をするが、それだけのことだ。どうすればうまくいくかを解説するようなことはしない。

父親は、「教える」といっても、教科書をなぞるように教えるのではない。子どものやったことを見ながら、まちがいを軌道修正する。だから、子どもをよく見ている。子どももまた、父親の反応をよく見ていて、自分の行動を正す指針にする。

教える者と教えられる者の、相互の尊重。それこそが教育の原点だと思う。

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