国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(7)マヤ文明を活用する  2015年4月30日刊行
鈴木紀(国立民族学博物館准教授)

作品を手にするパトリシアさん=メキシコ・ユカタン州ムナ市で2015年3月、筆者撮影

メキシコのユカタン州は、マヤ文明が栄えた土地だ。現在も多くの人々がマヤ語を話している。この地方の焼き物の産地を訪ねると、驚きの連続だった。

ティクル市の「マヤ芸術」というグループは、1970年代から、古代マヤ人が作製した土器の複製方法を研究してきた。粘土や釉薬(ゆうやく)、焼成の実験を繰り返し、本物そっくりの土器を作る。表面のひびや汚れも精密に再現し、まるで発掘されたばかりのような土器が彼らの展示室に並んでいる。

複雑なマヤ文字や多彩色の絵を土器上に描くために、かつては研究書や写真集が不可欠だった。ところが今では、インターネット上に公開されているマヤ土器のデータベース・サイトから下絵をダウンロードするだけだときいて、さらに驚いた。

複製技術を土台に、オリジナル作品の制作に励む作家もいる。ムナ市に工房をかまえるパトリシア・マルティンさんは、その一人だ。色を変えたり、形を現代風にしたりして、作家の個性を表現する。マヤ文明は自分の世界そのものだと、彼女は言う。

古代の土器は、現在の陶芸家の創造力の源だ。マヤ文明はしばしば失われた文明といわれるが、むしろ現地では知的資源の宝庫として活用されていることに驚きを禁じえない。

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