国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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ミュージアム

(5)海外展開の意味すること  2015年8月6日刊行
出口正之(国立民族学博物館教授)

ビルバオ・グッゲンハイム美術館=2008年6月、筆者撮影

スペイン北部のバスク地方最大の都市ビルバオは製鉄・造船業が発達した一大工業地帯であった。

しかし、重工業の工業地帯の宿命としてビルバオもかつての隆盛を失い、1980年代には失業率は25%にも達する荒廃した都市となっていた。そこで文化による都市再生が目論(もくろ)まれ、97年に開館したのがフランク・ゲーリーの設計によるビルバオ・グッゲンハイム美術館である。この美術館は都市そのものを変えた。

その後、失業率は10%を切り、文化による都市再生の成功例として同美術館は世界の耳目を集めたのである。

実はここでもう一つ注目したいのは、 同美術館は米国の財団を生みの親としている点である。財団というのは財産の塊に法人格が与えられるもので、持ち分の定めがなく、いわば所有者がいない存在である。企業のように株主が企業を所有するということができない。したがって、財団が設置するミュージアムというものは、法的な結合が断絶してしまうために、通常は海外展開になじみにくいものなのである。

そうした中で、グッゲンハイムは海外展開に舵(かじ)を切った。文化による都市創造とともに、ミュージアムの海外展開という象徴的意味にも注目したい。

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