国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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文化財を守る

(1)災害時にすべきこと  2016年4月7日刊行
日高真吾(国立民族学博物館准教授)

国際ワークショップではヘルメットやマスク、ゴーグルの着用などが細かく指導された=2005年、筆者撮影

未曽有の被害を出した東日本大震災から5年が過ぎた。この震災で被災したたくさんの文化財を救うべく、日本国内では、過去最大規模の文化財レスキュー事業がおこなわれた。筆者も民俗文化財の保存修復の専門家として、民俗文化財のレスキューを手掛けた。

この東日本大震災をはじめとした、災害で被災した文化財のレスキューをおこなう際、2005年にタイで開催された、災害時に博物館がどのように行動すべきかをテーマとした国際ワークショップに参加した経験が活(い)きている。ここでは、洪水で被災したタイの博物館の経験や、被災した文化財への対応などを学び、筆者がその後、日本で文化財レスキューをおこなう上での行動指針ともなっている。

一方、筆者はこの「文化財レスキュー」をおこなうときに、必ず感じる違和感がある。それは、災害で地域そのものが消滅の危機に瀕(ひん)したときに、はじめて地域の文化や地域で育まれた文化財が注目されるという現象である。

いかにして、日常のなかで、地域の文化の大切さをみんなで意識するのか。その豊かさに気づくことができるのか。「文化財を守る」ことの本質といえるこの課題について、博物館が果たせる役割を日常から意識しておきたい。

シリーズの他のコラムを読む
(1)災害時にすべきこと
(2)海外若手研究者に学ぶ
(3)地域が主体の継承の形
(4)保存修復の現場から