国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

カフワから咖啡へ

(3)変わりゆく好み  2017年10月19日刊行
菅瀬晶子(国立民族学博物館准教授)

中高年は職場に持参するほど、コーヒー好き=2017年7月、イスラエル・ハイファで筆者撮影

アラブ人の生活には不可欠に思えるコーヒーだが、実はここ20、30年で大きく変化している。まず、伝統のアラブコーヒーが、若者にあまり飲まれなくなった。代わりに彼らが好むのは、インスタントコーヒーをあたためた牛乳でといた「ネスカフェ」、そしてシアトル系カフェの流入とともに爆発的に普及したカプチーノである。

ネスカフェとカプチーノの普及とともに、コーヒーハウスも変化した。かつてアラブのコーヒーハウス(マクハー)といえば、中高年男性のみに門戸を開いた暇つぶしの場であった。しかしいまや、シアトル系の流れをくむカフェがあちこちにできて、若い女性でも気軽に入れるようになった。

いっぽうで、逆の現象も起きている。アラブ世界の孤島であるユダヤ人国家のイスラエルでは、国内のマイノリティであるアラブ人や中東系ユダヤ人の食文化が「中東風」として受け入れられ、アラブコーヒーもまた、「カフェ・ボッツ(泥コーヒー)」と呼ばれ飲まれるようになっている。一部のアラブ人は「また俺たちの文化を盗みやがって」と眉をひそめるが、文化とは混交し、変化を遂げてゆくものだ。個人的には、ひとつのカフェでアラブコーヒーもカプチーノもフィルターコーヒーも飲めるのであれば、大歓迎である。

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(1)始まりはアラブ
(2)コーヒーを出す心
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(4)そして芸術に