国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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先住民ホピの銀細工

(1)宝飾品作りの昨今  2018年3月1日刊行

伊藤敦規(国立民族学博物館准教授)


ホピの作家と行った砂型鋳物などの調査=米国立自然史博物館で2017年12月、筆者撮影

宝飾品は人を惹きつけてやまない。稀少石や貴金属の素材、精緻なデザインと加工技術、そして作り手の思想や企業のブランド力などがその魅力を支える。

米国南西部の先住民の中には民族集団としての生き方や伝統知を宝飾品に込める人々もいる。遺跡からはトルコ石を丁寧に加工した装身具が頻繁に発掘されることからも、歴史的に宝飾品作りを得意としてきたのは明らかだ。銅の鈴が見つかることがあるものの、現代につながる金属加工はコロンブスの新大陸「発見」に系譜を持つ。旧大陸の人間は馬を連れてやってきた。人間は、面繋(おもがい)や蹄鉄(ていてつ)がなければ馬をうまく操って駆ることができない。金属加工は馬具の製造や修理に欠かせない技術だったのだ。スペイン人の専売特許が、この地の先住民に普及したのは約150年前で、その頃に銀貨を溶かして砂型に流し、装身具を作り始めた先住民があらわれたという。

世界遺産に登録されたグランドキャニオンから東に150キロほどで、先住民ホピの保留地に到着する。乾燥した高地には樹木は少なく、日差しは遮られることなく大地に降り注ぐ。ホピの人々は、かつては他の先住民と同様、銀貨を鋳造して作品を作っていたが、現在ではこの眩(まばゆ)く熱い太陽光を象徴するような、磨き込まれた銀製の宝飾品作りで知られている。

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