国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

タイを味わう

(2)懐かしい味  2019年7月13日刊行

大澤由実(国立民族学博物館機関研究員)


トゥアナオ作り。平たく伸ばした後、天日で干す=タイ王国チェンマイ県で2019年、筆者撮影

好きな料理は何ですか?タイで調査中に良く尋ねる質問である。北タイでよく聞く答えの一つがジョー・パッカード。特にご年配の方々からの支持が高い。アブラナ属の野菜がメインのスープで、タマリンドの優しい酸味と、その奥にどこか懐かしさを感じる味付けだ。

懐かしい味の正体はトゥアナオ(腐った豆)。大豆を発酵させたもので、タイの納豆とも言われている。北タイ料理の味付けには欠かせない調味料で、料理に少し加えると味に深みが出る。北タイ名物のカノムチン・ナムニャオ(米麺のスープ)や、ナムプリック・オン(トマトとひき肉のディップ)など多くの料理の味付けに使われている。ひき割り状のもの、せんべい状に乾燥させたもの、塩・トウガラシ入り、なし、などのいくつかの種類がある。

タイの中部出身のAさんは、十数年前に結婚を機に北タイへ引っ越してきた。彼女はトゥアナオの味が苦手なのだという。日本の納豆や味噌に慣れている筆者にとっての「懐かしい味」は、中部タイ人Aさんにとっての「苦手な味」でもあった。

さて、先ほどの好きな料理は何かの答えだが、最近タイの若者からは「すし!」と返ってくることも多い。筆者に気を使ってのことかもしれないが、タイの食文化は確実に変化しているのだ。

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