国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

タイを味わう

(3)危険な味  2019年7月20日刊行

大澤由実(国立民族学博物館機関研究員)


生豚肉のラープ=タイ王国チェンマイ県で2019年、筆者撮影

ラープは肉や魚に唐辛子などのスパイスを混ぜて作る和え物の一種だ。地域により味付けや作り方が違ってくる。北タイのラープは、コショウ科のヒハツや、マクウェンと呼ばれる山椒の一種など複数のスパイスを加えるため、香り豊かだ。豚の生肉を使ったラープもある。肉をよく叩き、生血や内臓、そしてスパイスを混ぜる。しっかりと叩かれた豚肉はねっとりと柔らかく、口の中でとろけるような感覚だ。肉が新鮮だからか、またはスパイスのお陰か、臭みは全く感じない。焼酎やウイスキーのつまみに、スパイシーなラープは良く合う。

豚肉の生食は寄生虫の感染や食中毒などのリスクを伴う。北タイでは生豚肉のラープが原因とされる死亡事故も多く、政府などによる注意喚起も行われている。火を加えるラープもあるのだが、生肉のねっとりとした味わいが失われてしまう。危険だとわかっていても、やめられない味なのである。

生豚肉のラープを好んで食べるのは、圧倒的に男性が多い。村では豚の食肉処理、ラープの調理、そして食べるところまで男性のみで行われることもある。「タイの女性は本当に賢い。豚の生食が危険なことをわかっているから自分たちでは食べない。でも男性には食べさせる」。これは、70代のタイ人男性から聞いた冗談である。

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