国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

マレーシア ふしぎばなし

(1)おばけ  2019年12月7日刊行

信田敏宏(国立民族学博物館教授)


気さくな村人が多く、たびたび私の家に来ておしゃべりを楽しんでいた=マレーシアの先住民オラン・アスリの村で1998年、筆者撮影

マレーシアの熱帯雨林に暮らす、先住民オラン・アスリの村で、不思議な出来事に遭遇した。

ある夜、私はうすい布を体にかけて眠っていた。暑さにバテ気味だった私はぐっすり眠っていたのだが、突然、「金縛り」に襲われた。意識ははっきりしているが体は動かず、目を開けることもできなかった。すると、足元からじわじわと誰かが覆いかぶさってくるような感覚。恐怖に怯えながら、しかし動くことができずじっと耐えていると、その感覚はついには胸のあたりまで上がってきた。首を締められるのではという恐怖から、力を込めて目を開き、両腕を振り回して得体のしれない何かを追い払った。その瞬間、白い布をまとった何かが、さあーっと部屋の窓に飛んで行った。長い黒髪の女性だった。

翌朝、村人にこの話をしたところ、その話が広まって、ひっきりなしに次から次へと村人たちが私の家に話を聞きにくるようになった。どの村人も笑顔はなく、神妙な面持ちで話を聞いていた。そしてみな、「それはきっと、かつて村の学校で首をつって亡くなったマレー人の女性教師だろう」と言う。

幽霊は日本からきた私に興味があったのだろうか。それとも出て行けと言いにきたのだろうか。いずれにしても、この件で私は村人と親しくなることができたので、女性の幽霊には感謝している。

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