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旅・いろいろ地球人

南太平洋に住む客家

(3)タヒチ客家の「中国人」意識  2020年2月15日刊行

河合洋尚(国立民族学博物館准教授)


元宵節のポリネシアン・ダンス。客家女性らがポリネシア風とされる衣装を着て踊る=2017年2月、筆者撮影

タヒチの中国系移民の歴史は古い。19世紀半ば、綿花栽培のプランテーション労働者として、中国広東省から数多くの移民が到着した。だが、いまタヒチで客家を名乗る中国人の祖先の大多数は、20世紀前半に広東省から移住している。

タヒチの客家は、すでに移民3世や4世となっている。彼らは、現地在住のポリネシア人やフランス人と同じ学校に通い、フランス語を母語としている。大半の青少年層は客家語や中国語を流暢に話せず、漢字を読むこともほとんどできない。

30歳代のLさんも、そうした客家の一人である。かつて彼は、中国で起業しようと、祖父の故郷である広東省に戻ったことがある。だが、言葉も習慣も異なるため、中国本土の中国人から「外国人」扱いされ、苦労したという。結局、自分は中国本土の中国人とは違うと悟り、タヒチに戻った。

タヒチの客家は、中国本土の人々と接触することで、逆にポリネシアン・チャイニーズとしての自己意識を高めているようだ。春節や元宵節のようなハレの日には中国人としての祭日を過ごす一方、客家によるポリネシアン・ダンスの演目を故意に入れる。それにより、タヒチの客家文化が、ポリネシア文化との融合の産物であることを強調するのだ。

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(1)客家の故郷・中国広東省
(2)タヒチの春節と元宵節
(3)タヒチ客家の「中国人」意識
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