国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

フィジー語で暮らす

(2)私達って誰のこと?  2020年3月14日刊行

菊澤律子(国立民族学博物館准教授)


「僕たち(除外形・少数)海に行くよ」ワイレブ村で1992年7月21日、著書撮影

日本語では主語を使わずに話をすることができるが、フィジー語の文には必ず「私は」とか「あなたは」を表す代名詞が入る。代名詞の数は15個にのぼり、英語と違って名前などと入れ替えることはできない。

数が多い理由は、単数と複数に加え、2人を示す「双数」、3人以上のグループを指す「少数」があるからだ。三人称でいえば、「彼は」「彼ら2人は」「彼ら数人は」「彼ら大勢は」で異なる代名詞を使う。さらに、「私たち」という時には、話し相手を含む包括形と含まない除外形がある。前者で双数の場合には「私とあなた」、少数の場合には「私とあなたと誰か」、後者で双数の場合には、「私とあなた以外の誰か」という意味になる。

数だけ見ると大変そうだが、使えるようになるととても便利だ。「さあ行こう!」というときに包括形を使えば「あなたも来なさい」、除外形なら「あなたはお留守番」という意味になる。直接言わずとも、相手に自分の意図を伝えることができる。慣れてしまうと、英語や日本語がとても不便に感じられる。かくてオセアニア言語話者の間では、「私達除外形2人はね……」などと、変な日本語会話が聞かれることになる。そして、2言語併用社会なら、こんな時に文法要素の借用が起こるのだろうなぁ、と想像する。

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