国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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アイヌ文化と植物

(4)ユリ根は食料の要  2020年5月23日刊行

齋藤玲子(国立民族学博物館准教授)


オオウバユリの鱗茎。写真はテニスボールほどの大きさだが、大きいものは成人男性のこぶし大になる=2003年6月、筆者撮影

アイヌは狩猟採集民と言われるが、ヒエ・アワ・キビなどの雑穀も栽培していた。食用として知られる野生植物もゆうに100種を越え、穀類と合わせれば、伝統的な食事に占める植物質の割合はかなり高かったと考えられている。主たる食事は鍋物あるいは具だくさんの汁物で、シカなどの獣肉またはサケなどの魚と山菜類を煮込み、塩と油で味付けしたものだ。食事の終わりに、口をさっぱりさせるために薄い粥を食べた。

その粥の材料として、穀類以外によく用いられたのが、オオウバユリの鱗茎(りんけい)、いわゆるユリ根である。オオウバユリは、北海道では低地の林でもふつうに見られる植物で、6~7月ごろに鱗茎を大量に採取する。掘ったものをすぐに食べもしたが、長い冬に備えて保存食をつくるのが目的だった。加工法は地域によって異なるものの、基本は鱗茎を臼で搗き、水にさらして漉してデンプン(粉)をとり、残った搾り粕は円盤状にして干しておく。繊維の多いこの乾燥団子にもデンプンが含まれており、削って粥に入れたりして食べた。

オオウバユリとギョウジャニンニクはハル・イッケウ(食料・背骨)、つまり食料の要と言われる。ギョウジャニンニクは栄養価が高く、薬や病魔除けにもなる。この二つの植物があれば、飢饉にも疫病にも耐えられると伝えられているのである。

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