みんぱくセミナー 暮らしの中の言語学「ことばの機能障害と言語学」FAQ

セミナー当日に一般参加者の方からいただいたご質問やご意見などに対するご回答を掲載しています。(いただいたご質問は、編集せずそのまま掲載していますので、重複があります。)
質問をクリックすると回答をご覧いただくことができす。

原先生への質問
藤原先生への質問
那須川先生への質問
市田先生への質問
薮ノ内先生への質問
その他:質問相手が明記されていない質問

原先生への質問

(1) もし手話を言語的に障害の等級の判断が可能となった場合、手話を言語的に用いている聴者(コーダや手話通訳者)も「手話言語障害」と判断される場合も考えられますか?
これは法律の解釈の問題なので、言語学の立場からは明確に答えるのが難しいと思います。音声言語の二言語併用者が何らかの理由で、一方の言語に障害を受け、その言語をうまく利用できなるというケースが前例としてあればそれに従うことになると思いますが、おそらくそのようなケースは前例としてないと思います。
(2) 本人尋問したのか? 手話通訳者の日本語訳により意志疎通能力を裁判官が判断したというが、その根拠は何か? 判決にそのように説明されているのか? それとも被告側がそのように反論したのか? もしもそのような反論があった場合、原告側は反論しなかったのか? 14%程度の障害と認定した根拠は? 意志疎通能力の判断基準について上告して争わなかったのか? 争った場合、判決はどうなったのか? 双方の議論はどうなったのか?
手話通訳者の日本語訳により意志疎通能力を裁判官が判断したということ対する直接的な根拠はありませんが、裁判官が手話を全く解さない方だったので、大矢さんが意思疎通できているか(大矢さんの言いたいことが伝わっているか)どうかは、大矢さんの手話を通訳する手話通訳者の日本語訳が唯一の拠り所だったことは確かです。大矢さんが他のろう者と手話で会話する場面を裁判官が見て、意思疎通の程度を確認するという場面はありませんでした。判決には、手話通訳者の日本語訳で判断したということは明記されていません。「被告」(=交通事故の加害者)は「意思疎通の程度」を考慮することに対して反論していないと思います。「意思疎通の程度」が考慮されたことは判決の時点で初めて分かったことです。14%の根拠は示されていないので分かりません。ただ、障害等級に応じてどの程度の割合の損失かの目安が示されています。「言語の機能に障害を残すもの」は、27%という数字が示されているので、14%という数字が示されたと言うことは、裁判官は、「言語の機能に障害を残すもの」の半分程度の障害であると判断したようです。
今回の裁判は、地方裁判所で第一審が行われているので、不服申し立てをする場合は、「控訴」することになりますが、大矢さんは、控訴はしていません。仮に控訴した場合どうなっていたかは法律家ではない私が答える立場にはありませんが、大矢さんの手話言語機能の喪失の程度(低く見積もっても50%程度)を考えると、一審とは異なった判決がでてもおかしくないのではないでしょうか。
(2) 手話の要素で障害の等級を判断するとおっしゃっていました。しかし、手話には、手型、位置、動きの他に顔の表情も重要となっている。もし、脳性マヒ等でその表情が不可になった時は、手型や位置、動きの他に顔の表情も含めて等級の判断が必要ではないのでしょうか?
手話には非手指動作の一部が重要な文法機能を担っているのはご指摘の通りです。ただ今回は、大矢さんは非手指には障害を受けていなかったので、その点については、私は意見書には何も書きませんでした。ただ、もし、事故により非手指動作にかかわる器官に障害を受けた場合は、手話のコミュニケーションの何割を非手指の部分が担っているかを数値で示し、そのうちの何割の機能が喪失しているかを示すことが重要になると思います。今回の裁判は、交通事故による言語機能障害の程度が争点であり、障害等級も労災の基準を用いていたため、脳性マヒ等による障害の程度の判定はまた異なった法令が関わってくるのではないかと思います。
(4) 「手話言語法」が成立すれば、手話を話すための機能障害が音声言語の機能障害と同等の基準で判断されるようになると思いますか?
第一歩にはなると思いますが、手話の言語機能障害に関する法令がないという状況は変わらないです。今の言語機能障害の認定基準は手話を対象にしていないので、この基準を用いてそのまま手話言語機能障害を認定することは難しいと思います。
(5) 裁判での手話通訳のやり方も工夫の余地があるのではないかと思います。わからないところは「…。」、読み取れるところは「○○○」とか、きっちりと不明点がわかるようにする。(あくまで感じたまま、通訳者が補足したり、解説したりすることのないように。)このやり方で裁判にのぞめば、また変わる可能性はあるのではないでしょうか?
同感です。分からないところは分からない、読み取れない部分は読み取れないとはっきり言う必要があると思っています。今、第一線で活躍されている手話通訳士の方々は、おそらくそのように対応されると思います。ただ、手話通訳に関わっているすべての人たちが同じような認識を持っているとは限らないので、今後、検討する余地は大いにあります。
(18) 海外の対応はどのようなものか? また等級認定基準は同じなのか?
申し訳ありませんが、私の勉強不足のため、海外の対応例は分かりません。
(19) 1.ていおん!?という単語の意味は何ですか? 綴音機能とは何ですか?    2.後遺障害の等級の判断が誤ってしまったらどうなるのですか?
1.「綴音」(ていおん・てつおん)は言語学の専門用語ではないと思います。したがって性格に定義できませんが、推測するに、二つ(またはそれ以上)の音をつなげて発音する音のことだと思います。ここで「音」と読んでいるものが、仮に母音や子音のような単音のことならば、たとえば、母音の連続、子音の連続、音節連続(第一音節の最後の母音と第二音節の最初の子音のつながり:takoのakなど)のことだと思います。ただし、日本語では、子音連続は、二重子音(同じ子音の連続:gakkoo, kappaなど)または鼻音+同一調音点を持つ子音のつながり(kansai, kampai など)だけです。    2.後遺障害の等級判断が誤っていると原告や被告が思う場合は、定められた期間内に控訴または上告することになると思います。今回のケースはすでに控訴期限を過ぎていますので、障害等級の認定を不服として控訴することはできないのではないかと思います。
(20) 子音の発音に関して、言語の障害の等級を決定しなかったらどうなるのか? 意思疎通の可否がどちらもはっきりと区別できなかった場合どうなるか?
最初の質問の意味がよく分からないのでのすが、もし、「子音の発音で言語機能障害の等級を決定しない場合、他のどのような可能性があるか」という意味と解釈するならば、現在の状況では、その他の方法が法令で定められていないので、認定不能ということになると思います。「意思疎通の可否がはっきりと区別できない」ということは、言いたいことが伝わっているのか伝わっていないのかはっきりしない」ということになると思いますが、このような場合は、原告側がなんらかの方法で意思疎通の可否がはっきりさせることになると思います(今回の場合は、意思疎通に障害があるということを示すことになると思います)。ただ、上にも書いたように、今回は、意思疎通の可否やその程度が争点になっていることは判決が出るまで原告側は知り得なかったため、意思疎通の可否またはその程度について積極的に示すことはしませんでした。
(21)「けん音」について教えてください。
おそらく、「綴音(ていおん・てつおん)」に関するご質問だと思います。これに関しては上の質問への回答をご覧下さい。
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藤原先生への質問

(18)  共鳴でのど仏は声の響きにかかわっているのか?
 のど仏は喉頭の枠組みを形作る甲状軟骨部分です。喉頭で喉頭原音といわれる声のもとが生成され、喉頭より上部の声道(咽頭、口腔、鼻腔)で様々な声の響きが作られます。したがって直接声の響きに関わるのはのど仏ではなく、それより上部の空間ということになります。
(19) もし口とうがんになった場合、発話の4つのプロセスに影響はありますか?
 喉頭がんになって喉頭を摘出すると永久に声を出すことができなくなります。つまり2つ目のプロセスである発声機能を失うわけです。声を失うと3つ目の共鳴、4つ目の構音機能も役立たなくなります。その場合は人工喉頭というブザー音を出す装置を頸部に押し当てて声の代わりにしたり、食道発声という食道の入り口の粘膜を新声帯として使う練習をします。これには練習に時間を要し、獲得できない人もいます。最近は外科的に気管と食道にシャント(空気の流れる孔)を作り、食道の入り口の新声門を使って発声する方法も普及してきました。
(19b) 発音がキレイになるには、練習が必要ですか?
 不明瞭な発音が習慣化している場合は、正しい発音の仕方を練習する必要があります。いろいろな方法がありますが、先日ご紹介したエレクトロパラトグラフィ(EPG)を使った視覚的フィードバック訓練は、口腔内の舌の動きをモニターで確認しながら練習できるので、聴覚障害のある方にも有効な方法だと思います。しかしEPGでは舌が口蓋に接触する状態が見えるだけなので、あわせて喉頭レベルの有声音・無声音の出し分けや、鼻音と口音の出し分けを練習します。
(19c) 2~5モーラのモーラについて教えて下さい。
(20)でお答えします。
(20) モーラとは何ですか? そして、モーラという言葉を初めて使用したきっかけは何ですか?
モーラとは音の長さの単位です。「お・ば・さ・ん」は4モーラ、「お・ば・あ・さ・ん」は5モーラになります。単語明瞭度検査のところで「2~5モーラ」という表現を使いました。これは2モーラの短い単語(例:カメ)から5モーラの長い単語(例:マントヒヒ)まで含んだリストを用いて検査をするということです。
(21) 1.「言語聴覚士」は現在何人いますか?    2.単語明瞭度検査で2~5モーラはどういう内容になっていますか?(レベルが違うのか?)
1.言語聴覚士は国家試験合格者累計では21994名います。詳しくは日本言語聴覚士協会のホームページをご覧ください。 一般財団法人 日本言語聴覚士協会    2.(20)のお答えでお分かりいただけましたか?
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那須川先生への質問

(19) 音韻部門には音素が2種類あるが、手話部門には4種類と多いのは何故ですか?
音素の種類は言語によって様々です。十数種類しかもたない言語もあれば、30種類以上もつ言語もあります。音声を産出する際に観察される様々な規則に基づき、それらを大きく分類した場合、通常、「子音」と「母音」という2種類に分類されると言語学では考えます。手話音素についても手話の種類によって音素の数は異なります。それらを大きく分類した場合、4種類に分類されています。これは手話音素の研究において主流の見解であり、現時点では絶対的なものとは言えません。市田先生のご発表でも触れられていましたように、理論によっては3種類もしくは2種類に分類される可能性があります。
(20) 母音が存在しないならば子音は存在できない理由は?
これは言語で観察される音声(音韻)現象に基づいてます。例えば、世界中の言語を観察してみると母音が存在せず子音のみからなる「単語」は存在しませんが、子音を含まず母音のみからなる単語は存在します。すなわち、母音の存在は、子音が存在するための前提であると言えます。また幼児の音韻獲得過程においても、同様のことが言えます。子音‐母音の組み合わせ、もしくは母音のみからなる発話は観察されますが、子音のみで構成される発話は観察されません。さらに、音声の基本特性の観点から考えてみると、子音(阻害音)に比べ、母音は音声体系における中心的な役割を担っていることがわかります。音声の基本特性は(声帯振動を伴い産出される)「有声性」であると考えられており、(音韻的に)有声音である母音はその音声の基本特性を常にもっていると言えます。これにたいし、子音(阻害音)は有声音のものもあれば無性音のものもあります。すなわち、子音は音声の基本特性を常に有している単位ではないのです。そのため、単語を構成する際、母音は義務的に用いられ、子音は選択的に生じると考えられます。
(22) 那須川先生が言語機能の働きを判断する際に「意思疎通」を持ち込むことの不当性をはっきり示して下さったのは大変よかった。多くの人が「手話は意思疎通ができるので言語である」という説を信じているように思われ、そういう考え方が奨励されていると思う。(そうであれば、手旗信号もジェスチャーも同じ)。
励みになるご感想をいただき大変嬉しく思います。実際、意思疎通は言語を用いずともおこなうことは可能です。言語はその手段のひとつということはできますが、発表の際に提示しましたように、言語機能そのものに意思疎通を前提とした仕組みは組み込まれていないと考えるのが、現代言語学(生成文法理論)の定説と言えます。
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市田先生への質問

(19) PP(パワーポイント)の字が小さすぎて、要点が分かりません。また手話も初心者なので読み取れなく、講演が理解できなかったので、資料下さい。
みんぱくのウェブサイトに講演の映像資料(字幕付き)を掲載予定です。そちらをご覧ください。
(21) 市田さんのPPは小さくて読めないが、資料があればありがたいですが、もらえますか?
みんぱくのウェブサイトに講演の映像資料(字幕付き)を掲載予定です。そちらをご覧ください。
(22) チャはお茶の「茶」のような普通の語いにも出ますよ。
「茶」は中国語由来です。和語ではないので例外にはなりません。
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藪之内先生への質問

(19) 後遺障害等級によって、何か支援の方法も違うのですか?
後遺障害等級が高くなるに従い、慰謝料等の金額が上がっていきます。
(20) 1.そしゃくとは何ですか?    2.手話言語学の後遺障害等級に関して、現状は整備されていないとおっしゃっていますが、なぜ整備されないのですか?
1.口の中に入れた食物を歯で咬む機能のことをいいます。    2.手話言語学の後遺障害等級が整備されていないのは、おそらく手話言語に影響が出るのは腕や手に関する障害が残存した場合が多いと考えられます(顔の表情を作り出せないという場合もあると思いますが)。そして、自賠責の後遺障害等級表には、腕や手の機能障害等に関する後遺障害の等級が定められていることから、それらの後遺障害だけ定めておけば、言語的な影響は評価しなくても十分であると考えられたのだと思います。
(21) 「そしゃく」の意味を教えてください。
(20)の質問に対する回答をご参考にしてください。
(22) 藪之内先生のお話をうかがって、わけのわからない大きな法律を作るより、自賠責の手話言語の後遺障害等級表を作るような地味な仕事から始めるのがいいのではないかと思った。
既にある自賠責の後遺障害等級表は過去に作られたものですから、今の社会の実情に応じて足りない部分については、変更していかなければならないと思います。
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その他:質問相手が明記されていない質問

(6) 手話の研究者の立場(ろう者)から疑問に思った事があります。何故、子音と母音にこだわるのか、その理由を伺いたい。
【原】手話の言語機能障害の等級認定が現行の法令で定められていません。音声言語の言語機能障害は、調音点に基づいて子音(または音節)を4つのグループに分け、そのうちの何グループが発音上障害を受けているかで等級が決まります。したがって、手話の言語機能障害の等級を考える際にも、音声言語の子音すなわち音素に当たる手型・動き・位置等の障害の程度を示すことにしました。
(7) 健聴者たちは、聴覚障害(ろう)について、あんまり知らない人が多いと思う。健聴者がろうを知るためには、積極的に伝えることが大切なのか、これから何をすべきか?
現在回答はありません。
(8) 大矢さんは、現在どのように意志疎通をしているのでしょうか? 大矢さんの希望に叶う判決を得るには、何が改善されるべきなのでしょうか?(例:言語分析(手話と音声言語の並行性)、手話通訳の利用の仕方) 大矢さんの手話言語機能障害は運動機能の障害として還元できるのでしょうか? もしそうした場合、言語機能の場合とは得られる補償、金銭が随分と変わってしまうのでしょうか?
現在回答はありません。
(9) 意志疎通の可否は何を基準に判断しているのですか?
現在回答はありません。
(10) 「意志疎通の可否」について、裁判所が通訳者の大矢さんの手紙を読み取った日本語のレベルで判定することは、事前に原告側に伝えられていたのでしょうか?
現在回答はありません。
(11) 裁判官が言語学的、医学的に素人であるとの話だったが、啓蒙するための方法はあるのでしょうか? 場当たり的に、その時、その時の判決に委ねる他、方法は無いのかと思うと、先行き不安を感じます。言語が意志疎通の為の手段のみならず、人間の尊厳、アイデンティティーに関わるという認識が欠けていると思われます。
現在回答はありません。
(12) 裁判における手話通訳の方法にも問題があるのかもしれません。手を満足に動かせていない状態で手話を表出しているにもかかわらず、手話通訳者によって、こなれた日本語として裁判官の耳に届くこととなっています。よみとりづらさもありのままに通訳者が情報として補足してはどうかと思います。
現在回答はありません。
(13) 手話能力がどの程度失われてるかを中心に個別的に判断するという再考するのですが、どうやって判断するのか?
 手話は「言語」であるが、どうして言語と言えるのでしょうか?
【那須川】発表で示しましたように、音声言語同様、手話にも統語部門、音韻部門、意味部門が存在し、それらの機能は、それぞれに対応する音声言語の部門の機能と酷似しているからです。
(14) S型やI型やY型とかわらないのであれば、Y型の音素としての語を区別する役割が果たせないのだから、Y型も障害されていると言えるのではないでしょうか? 日本手話と日本語のバイリンガル(コーダなど:親がろう者、生活で必要な言語)も言語障害の認定はえられるのでしょうか?生活の中で手話が重要なことばとなっているのですから。また、通訳者の場合や学習者(これからその言語を身につけて、自分のもう1つの言語にしようとしている人)の場合はどうでしょうか?
現在回答はありません。
(15) 海外では手の障害認定基準はありますか?
現在回答はありません。
(16) 外国では、どのような基準で障害程度を判断されていますか?(福祉が進んでいる北欧やアメリカなど) 幼少のころ(手話を学んでいない、覚えていないとき)事故で手が使いにくくなって、そのあと手話を覚えても、言語障害となるのか?(保険金のほしさに、手話を覚える人が増えてしまう?) ろう者=言語障害を持っているイメージが強いのですが、実際にはそんなに多くない。発音ができないろう者は申請すれば、言語障害として認められるのか?
現在回答はありません。
(17) 海外の裁判における、手話言語を扱った判例があるのかも。もしあれば、それを参考にすると良いと思う。
現在回答はありません。
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