国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

20世紀前半ペルシア湾における「奴隷解放調書」の研究

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 鈴木英明

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、20世紀前半のペルシア湾で作成された「奴隷解放調書」にみえる奴隷の証言を体系的に用い、奴隷制・交易の実態と奴隷の行動パタンの解明にある。「奴隷」とされた人びとの証言を網羅的に収集し、証言を構成要素に分解し、それをデータベースにまとめたうえで分析を施し、所期の目的を達成する。
具体的な研究の展開としては、A.証言の資料的価値を明らかにし、B.質的データの量的把握に関する方法論を確立したうえで、C.20世紀前半のペルシア湾における奴隷制・交易の実態、奴隷の行動パタンを解明する。となる。
本研究の期待される成果としては、①当該地域における奴隷制・交易の実態解明と奴隷の行動パタンの解明によって当該地域の歴史研究や20世紀前半を対象とした奴隷研究への貢献のみならず、②証言分析の方法論を確立することによって、奴隷制・交易研究一般への貢献が想定される。

活動内容

◆ 2018年8月より転入

2019年度活動報告

研究計画最終年度に当たる本年度は、まず、5月に京都精華大学で開催された第56回日本アフリカ学会学術大会において、“African History in Broader Perspective: Some Dimensions in 19th and 20thCentury”というセッションを組織し、そのなかで“African Diaspora in the 20th Century Persian Gulf:Preliminary Observations with Slave Narratives”と題した報告を行った。セッション全体を通して、本研究のより大きな枠組みにおける位置づけに関する示唆を得ることができた。
また、2月23日から3月1日までクウェートで調査を実施した。奴隷解放調書登場するいくつかの地名に関する踏査を行った。これによって、奴隷解放調書の内容をより具体的に捉える一助を得た。
また、本研究の成果を援用し、David Ludden, et al. (eds.), Oxford Research Encyclopaedia of Asian History (Oxford: Oxford University Press)にAsian Diaspora in Asiaと題した項目を寄稿した。加えて、『国立民族学博物館研究報告』44-4に「海域世界の鼓動に耳を澄ます――19世紀インド洋西海域世界の季節性――」が掲載された。日本アフリカ学会大会で報告した内容については、現在、論文を執筆している。

2018年度活動報告

 平成30年度は、5件の口頭発表を行い、1冊の共著と1本の研究論文を刊行した。特に、3月にリヨンで開催された "Capture, Bondage, and Forced Relocationin Asia (1400-1900)"(アジアにおける捕縛、拘束、そして強制的移転(1400-1900)) と題された国際ワークショップにおいて、"Bonded labour in thefirst half of the 20th century Persian Gulf: A quantitative approach"(20世紀前半ペルシア湾における拘束労働者――数量的アプローチ)と題して、これまでの研究成果に基づく方法論に関する報告を行い、多様な角度からのコメントを受けたことは非常に大きな成果であるといえる。現在、コメントを踏まえた論文執筆に取り組んでいる。また、同月には京都大学東南アジア研究研究所において、「20世紀初頭のペルシア湾におけるイギリス帝国と奴隷制ーー奴隷解放調書をめぐってーー」と題する報告を行った。これについても、特に政治学関係からの有益な助言を得ており、今年度は本研究を様々な角度から検討することができた。
 また、イギリスにおける史料調査によって収集資料を拡大し、その分析作業が進展したことも重要な成果であると考える。