国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

漁民とジュゴンの海域利用特性の解明による共存型海洋保護区モデルの創出(2017-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 中村亮

研究プロジェクト一覧

目的・内容

世界のジュゴン生息海域では、希少種のジュゴン(Dugong dugon)が漁網にかかって死亡してしまう混獲が問題であるが、混獲防止のために漁撈活動に制限がかかり漁民の生活が圧迫されてしまうことも看過できない。75の海洋保護区(MPA)を擁する紅海では、漁民とジュゴンの海域利用の共存をめぐる問題が深刻である。
 本研究では、スーダン紅海北部のドンゴナーブ湾海洋保護区を調査地とし、漁民とジュゴンの海域利用特性を「文化人類学」と「動物生態学(バイオロギング)」より解明し、漁撈活動を極力妨げないジュゴン混獲防止策を発見する。それをもって、農業が困難な乾燥熱帯沿岸域における安定した生産活動=漁撈による住民生活の改善と向上に資する、漁民と保護動物との共存型海洋保護区モデルを創出することが本研究の目的である。

活動内容

◆ 2018年4月より転出

2017年度活動報告

スーダン紅海北部のドンゴナーブ湾海洋保護区を調査地とし、漁民とジュゴンの海域利用特性を「文化人類学」と「動物生態学(バイオロギング)」より解明し、漁撈活動を極力妨げないジュゴン混獲防止策を発見する。それをもって、乾燥熱帯沿岸域における安定した生産活動(漁撈)による住民生活の改善と向上に資する、漁民と保護動物との共存型海洋保護区モデルを創出することが本研究の目的である。
研究初年度は、年次計画に従い、ドンゴナーブ湾海洋保護区にて紅海大学と共同で現地調査(文化人類学)を実施した。ジュゴン混獲の主原因が「冬場に実施される撚糸製刺し網漁」であることより、冬場に調査時期を設定し、湾内の82ヶ所の刺し網漁場の位置・水深・底質・漁獲対象魚を記録した。そのデータを、ジュゴンの摂餌場である海草藻場の分布と過去(2003~2013年)にジュゴン混獲が起こった場所と重ね合わせることで、混獲の可能性が高い刺し網漁場が地図上に可視的に明らかになった。また、刺し網漁は、冬の強風時に海が荒れて手釣り漁(ドンゴナーブ湾の主要漁法)が不可能な場合におこなわれる「代替漁業」の性格を持つことも明らかになった。これまで「仮説」段階であったジュゴン混獲メカニズムについて、漁撈活動の実態が実証的に解明されることで、より具体的に明らかになりつつある。
今後は、漁師に漁業日誌(日時、場所、風、漁獲高)を書いてもらうことで(1年間)、代替漁業としての刺し網漁の経済効果について解明する必要がある。同時に、混獲可能性の高い場所での刺し網漁について、現在ドンゴナーブ村に5人いる刺し網漁師と協議するために、次回調査では、これまでの調査結果を漁業者(利害関係者)と話し合うワークショップをドンゴナーブ村で開催する予定である。