国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

教育資源・観光資源としての地域文化遺産の活用と保存(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 日高真吾

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、昨今、大きな研究テーマとなっている地域文化遺産について、教育資源や観光資源として、適切に活用し、保存するための方法論を明らかにすることを目的とし、博物館学、保存科学、民俗学、教育学、観光資源学の観点から研究を進めるものである。
具体的には、地域文化遺産の一つである学校所在の民俗資料を対象に2つの着眼点から研究を展開する。一つは研究対象とする学校所在の民俗資料が、その地域で適切に活用され、保存される活動プログラムを構築する。もう一つは、地域文化遺産の活用がその地域のみに限らず、観光などを通して地域を訪れた人びとが、その地域の文化に触れ合うことのできる観光資源としての活用方法を検証する。そして、これらの研究成果から、地域文化遺産の教育活用、観光活用の可能性を明らかにし、これらの活用に耐えうる保存方法の開発に取り組む。

活動内容

2020年度実施計画

今年度は地域文化の宝箱の最後のテーマとなる気仙沼の魚食パックを完成させる。また、昨年度までに完成させた奥三面パック、枚方パック、久多パックの本格運用を開始し、運用における各パックの課題を明らかにする。具体的には、制作した教育パックを協力機関の地域の学校で運用試験をおこなう。この運用試験では、実際に学校の授業において運用する。また、運用に当たっては、学校の教師及び博物館学芸員による授業をおこないながら、両者が使用できるようなパックの内容と運用マニュアルを策定する。さらに、観光施設における運用も試み、地域文化の観光拠点である博物館施設での利用の可能性について明らかにする。ここでの試験では、研究メンバー全員が関与し、各試験において反省と改善を繰り返す。このことによって、学校所在の民俗資料を地域文化遺産として位置づけ、それらの教育資源、観光資源としての可能性を引き出す。
また、上記内容について、日本民具学会、文化財保存修復学会等、関連する学会で発表するとともに、各協力機関が所在する地域でも積極的に成果公開をおこなう。このことによって、学術的な議論を鍛え上げつつ、地域への研究成果の還元を達成する。
加えて、博物館施設ではない学校などの施設を想定した学校所在の民俗資料の保存環境の創出のための方法論を明らかにする。

2019年度活動報告

2019年度は、まず2018年度に制作した村上市の奥三面パックと枚方市の鋳物パックの2つの教育パックの本格運用と改善点の洗い出しを実施した。なかでも奥三面パックについては、村上市の教育委員会が主催する校長会での教育パックの説明と夏休みの教員向け研修会において、教育パックの紹介をおこない、積極的に意見交換の場を設け、教育パックの改善点の洗い出しをおこなった。さらに、博物館に最も近い小川小学校を最初のフィールドとして教育パックを使用することを提案し、そこで出た意見をもとに奥三面パックの改修をおこなった。また、京都市左京区久多の山村のくらしをテーマとした教育パックの制作に着手し、ここでは、民泊体験で使用できるDVD番組の制作をおこなった。
地域文化遺産の活用については、枚方市内の学校所在の民具について保存状況を確認するとともに、より効果的な活用を目指した展示方法について枚方市教育委員会と意見交換をおこなった。また、旧月立中学校、旧茎太小学校の環境調査を実施し、よりよい保存環境と活用プランについて温度湿度の推移についてモニタリングをおこない、保管場所の運営について助言をおこなった。特に今年度は旧茎太小学校においてハツカネズミの生息が確認され、適切な対応ができ、被害を最小限に食い止められたことは大きな成果と考える。
これらの研究活動においても地元の教育委員会との連携を強く意識し、地域主体の運用体制の構築に努めることができた。また、上記内容について、日本民具学会、文化財保存修復学会、近畿民具学会等において研究発表をおこなった。

2018年度活動報告

本研究は、昨今、大きな研究テーマとなっている地域文化遺産について、教育資源や観光資源として、適切に活用し、保存するための方法論を明らかにすることを目的とし、博物館学、保存科学、民俗学、教育学、観光資源学の観点から研究を進めるものである。具体的には、地域文化遺産の一つである学校所在の民俗資料を対象に2つの着眼点から研究を展開する。一つは研究対象とする学校所在の民俗資料が、その地域で適切に活用され、保存される活動プログラムを構築する。もう一つは、地域文化遺産の活用がその地域のみに限らず、観光などを通して地域を訪れた人びとが、その地域の文化に触れ合うことのできる観光資源としての活用方法を検証する。そして、これらの研究成果から、地域文化遺産の教育活用、観光活用についての可能性を明らかにし、これらの活用に耐えうる保存方法の開発に取り組む。
このうち、2018年度は、学校所在の民俗資料が、その地域で適切に活用され、保存される活動プログラムを構築する事前調査として、枚方市内の学校所在の民具の悉皆調査をおこない、来年度以降の調査フィールドの選定準備をおこなった。また、気仙沼市旧月立中学校、村上市旧茎太小学校の環境調査をおこない、来年度の運用体制について協議する準備を整えた。
また、地域文化遺産の教育活用の可能性として、地域文化の宝箱プロジェクトを立ち上げ、村上市縄文の里朝日と枚方市立旧田中家鋳物民俗資料館の事前学習キットのプロトタイプモデルを製作した。ここでは村上市教育委員会、枚方市教育委員会と協力し、内容をとりまとめ、来年度以降、本格運用を目指した各学校施設での説明会の準備を整えた。