霧の森とは

マダガスカル島には、南北の長軸を貫くかたちで、標高1000メートルを越す高原部が広がっています。首都アンタナナリヴも、この高原部にあります。高原部は、東のインド洋から吹いてくる湿った貿易風をさえぎり、東側に雨を多く降らせ、西側を乾いた気候としています。

東部低地の多雨地帯、ここに育つ森を「雨の森」と呼ぶことにしましょう。これに対して「霧の森」は、雨を降らせた後の貿易風が、斜面をのぼって高原部に達したあたりにあります。ここでは、雨の森ほど雨が多いわけではありませんが、貿易風が高原部の冷気と出会うため、貿易風のわずかな湿気が凝結して霧となります。そして、それが樹木を育てます。

霧の森は、雨の森ほど木材生産が多いわけではありません。しかし、人びとの生活と結びつく点では、雨の森と同じくらい重要といってよいでしょう。たとえばこの地域では、高さ3〜5メートルほどの木造家屋建築がみられます。これほど大きな木造家屋が現在でも一般的なのは、マダガスカル広しといえども、この地域だけです。

伝統的家屋 木造家屋は、マダガスカルの中央高原部では19世紀頃までよくみられたようですが、森林の減少と新素材の導入とが重なり、次第に廃れていきました。いっぽう、雨の森では、木材よりも加工がしやすい植物素材(タケ類、ラフィアヤシ、オウギバショウ=タビビトノキなど)が、建築の素材として一般的であるようです。

このことをふまえると、霧の森は、人と樹木とが強く関わりあう数少ない場所といえるかもしれません。