マダガスカル中央高原部の東の縁にある霧の森、その一角に住む人びとがザフィマニリを自称しています。彼らの居住域は、行政区でいうと、フィアナランツア州アムルニ・マニア地域圏のふたつの郡、アントエチャ郡(Antoetra)とアンブヒミトゥンブ郡(Ambohimitombo)にまたがっています。人口ははっきりとはわかりませんが、2万5000人ほどだといわれています。人口2000万のマダガスカルでは、とても小さな民族です。
山間部に住む彼らは、焼畑耕作をおもな生業としてきましたが、20世紀になってからは水田耕作への依存も高まっています。経済的にはこうした農耕が重要なのですが、彼らを有名にしたのは、木彫りの巧みさでしょう。
ザフィマニリ人は、生活で用いる道具などを、身のまわりの素材で作ってきました。木工も、このような生活上の必要から始まったものです。腰かけ、臼杵、さまざまな収納具。生活になじんだ木工品をあげると、きりがありません。そのいっぽうで、ザフィマニリ人は、家屋の一部である柱や扉、開き戸式の木製窓などに、ユニークな幾何学的彫刻をほどこしてきました。これは、実用のために始められたとは考えられません。村の草分けが建てた家屋に子孫たちが住みつづけるうち、先人をたたえる目的で、装飾をほどこすようになったと考えられています。
このような習慣がみられるのは、マダガスカルのなかでもザフィマニリ人のあいだだけです。このきめ細かな彫刻は、ヨーロッパ人の目にとまり、次第に商品化されていきました。そのことは、結果的に、ザフィマニリ彫刻の存在を世に知らしめることになりました。ザフィマニリ人がもつ木彫りの技術や知識は、現在、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。特別展が日本で開かれる2013年は、ちょうど登録10周年にあたります。