MINDAS 南アジア地域研究 国立民族学博物館拠点
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◆研究会報告 2015

調査報告
インド音楽・舞踊のグローバリゼーション
-フランスにおけるインド音楽の受容とムスリム音楽家グループの活動に関する調査-

期 間: 2015年9月18日~28日
国 名: フランス(パリ市)、オランダ(アムステルダム市)
報告者: 田森雅一(東京大学)
概 要:  「インド音楽・舞踊のグローバル化」をテーマに、フランスを中心とするヨーロッパ諸国において、1)ラージャスターン出身のムスリム音楽家たちのネットワークと音楽活動、2)インド音楽の受容と展開の歴史と現状、3)文化政策とインド音楽振興の関係、4)大学・研究機関における研究者との交流および博物館・劇場におけるインド関連展示や上演演目などに焦点をあてて調査を行っている。今回の調査もこれら4つのサブテーマについての探求とフォローアップの一環をなすものである。
 フランスを中心に活動するラージャスターン出身のムスリム音楽家たちは、その活動ジャンル・内容によって二つのグループに分けることができる。一つは、北インド古典音楽の教授とコンサート活動を中心とするグループ。もう一つはラージャスターンの民俗芸能をレパートリーとするグループである。彼らの中には、レジデンス・カード(10年の長期滞在査証)を有して1年の大部分をフランスで生活する者たちと、そのような中核人物(グループリーダー)の招きにより年に1〜2回程度(1回に3ヶ月程度)フランスを訪れる者たちがいる。
 パリ在住でレジデンス・カードを有するアマーナト・アリー・カワー氏は、弦楽器シタールで北インド古典音楽を教ることで定期収入を得ながらコンサート活動を行い(写真1)、ジャイプルの家族に仕送りをしている。生徒数は20〜30人といったところで、そのほとんどはフランス人。生徒は口コミやコンサート後に学習を希望する者が大半だが、教室の告知広告を出すこともある。パリ市内での小さなコンサートはSNSなどを活用し、知り合いや生徒のネットワークなどで満員になることが多い。今回自宅を訪ねてみると、フランスの地方や近隣国でのコンサートを活発化させるため、フリーのマネージャーを雇ったという。そのマネージャー氏の役割は、民族音楽やワールドミュージックの公演を多く行っている劇場や団体に連絡をとってインド音楽のニーズを聞き、公演の可能性を探るというものだ。「音楽を追求したいのはやまやまだが、新しいことにもチャレンジしたい。そのためには“マーケティング”も必要だからね」という。最近では、フランス人のジャズや現代音楽のグループとのセッションも増えている。彼はまた、甥たちを招いてカッワーリーなどのグループを形成し、音楽家兼マネージャーとして活動することもある。
 一方、やはりパリ在住のアンワル・カーン氏は、ラージャスターンの民俗音楽・舞踊グループのリーダーである(写真2)。フランスには「ラージャスターンのジプシー」を名乗るグループがいくつかある。そのようなグループ・リーダーのなかには、レジデンス・カードを有する者もおり、フランス人と結婚している/結婚したことのある者も少なくない。グループの形態や規模はさまざまだが、ボーカルとハルモニアム、各種打楽器にカールベーリヤー(舞踊)やファキール(大道芸)が加わるのが通常である。アンワル氏によれば、カールベーリヤーの踊り手は、自分のネットワークを通してラージャスターンから招き、査証等の関係で3〜6ヶ月程度で入れ替わることが多い。今回の訪問では、ジョードプルでカールベーリヤー舞踊を学んだルーマニア出身の女性がメンバーとなっていた。アンワル氏の場合は、比較的規模の大きなインド料理店での定期的パフォーマンスをベースとして、野外フェステバルなどへの参加を活動の中心としている。
 フランスで活動するラージャスターン出身の音楽家たちは、その音楽ジャンルが異なっても、父方あるいは母方を通しての親戚関係にある者たちがほとんどである。アマーナト氏とアンワル氏も遠縁の関係である(写真3)。彼らの多くが、1990年代以降にムサーフィルというグループの活動に携わった者たち、あるいはその親族・関係者であり、そのネットワークは周辺国にも広がっている。彼らのオランダでの活動の歴史や実情、ネットワークの広がりについてはさらに調査を進めていく予定である。
 なお、今回の調査では、仏国立ギメ東洋美術館でのインド音楽のコンサート(シタールの巨匠スジャート・カーン氏)のリハーサル段階から音楽家や関係者に密着し、インタビューを行った(写真4)。また、パリで活動する日本人シタール奏者の活動にも注目し、コンサートへの参加とインタビューを行った(写真5)。研究機関・博物館等との交流では、パリ国立高等音楽・舞踊学校(Conservatoire de Paris)の敷地内に併設された音楽博物館(Musée de la Musique)のキュレーターであるフィリップ・ブルギエ博士に施設の案内と収蔵品の解説等をしてもらうと同時に(写真6)、インド音楽と楽器資料に関する情報交換を行った。

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研究会報告
「MINDAS 2015年度第1回合同研究会」報告

期 間: 2015年7月11日(土)、12日(日)
場 所: 国立民族学博物館2階第6セミナー室(11日)、第5セミナー室(12日)
概 要:  2015年度第1回のMINDASの2ユニット合同の研究会を行った。
 初日の7月11日(土)は、MINDASの第2期メンバーのみを対象とした研究会を開催した。まず、拠点代表の三尾が第2期の「現代インド地域研究」プロジェクト全体の目的と計画、またMINDASの役割、目的、研究計画について説明を行った。MINDASは副中心拠点としてプロジェクト全体の国際化に貢献しつつ、独自の研究を積み重ねて第2期が終了する予定の2020年度までに論集を1冊ないし2冊刊行することを目標とする。各自の調査とユニット合同研究会はその目的に収斂するように実施される。拠点代表は、各ユニットの趣旨についても詳細な説明を行った。これに対する質疑応答の後、出席メンバー全員が自己紹介と、このプログラムにおける各自の研究の目標について発言を行い、問題意識を共有した。
 2日目の7月12日(日)は公開で、第1期のMINDASの研究成果につき合評会を行った。午前中は第1期の研究プロジェクトの一環としても行い、この3月に完成した国立民族学博物館南アジア展示場の新展示について、展示場で実際に展示を見ながらそのねらいや内容について意見交換を行った。展示全体については概ね好意的に受け止められたが、展示の細部については事実誤認等も指摘された。この点については来年度に予定されている修正時に正すべきである。
 午後は出版物としての成果である三尾稔・杉本良男(編)『現代インド6 環流する文化と宗教』(東京大学出版会)の書評会を行った。最初に編者の1人である三尾がこの巻の趣旨と内容について説明を行い、その後、小西公大(東京学芸大学教育学部准教授)と橘健一(立命館大学産業社会学部非常勤講師)の2氏から巻全体および各章の内容について書評が口頭で行われた。それに引き続き、全体で討論を行ったが、特に環流をグローバルなフローに関する理論にどのように位置づけるべきかと言う点と、「南アジア的」とされる文化や社会の特性の理解のあり方と文化本質主義に対する文化人類学的な批判に関する点に議論が集中した。討論では明確な結論は得られなかったが、各章の評価と問題点の指摘と合わせ、全体的な理論に関する議論は、第2期の研究プロジェクトを進めるうえで非常に有意義な書評会であった。

(文責 三尾 稔)