国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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開館30周年式典・館長式辞

地の先へ。知の奥へ。みんぱく開館30周年

本日ここに秋篠宮、同妃両殿下のご臨席を賜り、人間文化研究機構・国立民族学博物館・開館30周年記念式典を挙行できますことは、誠に光栄であり、私ども館員、さらには民族学・文化人類学関係者にとりましても大変名誉なことであります。謹んで御礼申しあげます。

国立民族学博物館は、組織としては1974年に創設され、博物館の展示は3年後の1977年11月に一般公開されました。

以来、30年の歳月が過ぎたわけでございます。この間、多数の関係の方々のご協力、ご支援によりまして、大学共同利用機関である本館は、研究者コミュニティに支えられた共同研究の推進、研究体制の整備と改革、展示の充実など、博物館をもつ民族学・文化人類学の研究機関として着実に発展を遂げてまいりました。

開館30年を迎えた今日、幸いなことに、本館は研究機関としてばかりでなく、総合研究大学院大学の2つの専攻をもつ研究者養成のための教育機関として、またこの分野の研究成果を展示する博物館としても、国内外において一定の高い評価をうけるようになり、世界における民族学・文化人類学の有力な研究拠点として位置づけられるようになりました。

国立民族学博物館が、今日、多方面にわたって活動を展開することができますのは、ひとえにこの場にご出席のみなさまはじめ、たくさんの方々のご理解とご協力のたまものと、こころから感謝申しあげるしだいであります。また、本館創設以来、館の礎をつくるべく獅子奮迅の努力を傾けてこられた研究部、管理部、情報管理施設の先輩諸氏にも深い敬意をあらわしたく思います。

初代梅棹忠夫館長以来、佐々木高明館長、石毛直道館長を経て、館長も4代を数えるにいたり、創設時のスタッフの大半が既に本館を去られております。そして、本館をとりまく環境にも近年、大きな変化がありました。本館は2004年、大学共同利用機関法人・人間文化研究機構の一員となり、石井米雄機構長のもと、機構内の他の研究機関と連携協力しながら人間文化の総合的研究の一翼を担うことになりました。30年という時点は、館の体制や人的構成という点からみましても、本館の法的な位置づけからみましても、まさに新・旧を画するところとなりました。

他方で、本館が研究の対象としている世界の社会と文化は、創設時には予想もしなかった速さで変貌しております。個々の民族社会や文化を固定的、静的なものとして理解することは、しだいに難しくなっております。人は絶え間なく越境し、文化は複雑に入り交じり、情報の往来は瞬時のものとなりました。こうした変化に合わせて、本館の研究も生まれ変わりを要請されています。

本館では時代の変化に合わせて、文化人類学の社会的活用など新しい研究課題を開拓し、それにふさわしい研究手法を追究しているところでございます。なかんずく、大学共同利用機関本来の使命として、国公私立大学や国内外の研究機関との連携をさらに密にしつつ、現代的な課題をも視野に入れて、人間文化の生成と発展を巨視的に展望する基礎的研究に、引き続き力を注ぐ所存でございます。

「地の先へ。知の奥へ。」という開館30周年に際してのスローガンは、本館の研究を特徴づけるフィールドワークという営為を通して人間文化の深奥へ迫ろうとする、飽くなき探求の決意を示したものであります。私たちは、人間文化の基礎的研究の価値と意義を尊重しつつ、なおかつそれに加えて、激動する21世紀の世界と日本の諸課題に対して民族学・文化人類学の立場から積極的に発言し、国際開発協力などの実践的な活動を支援することで社会的な貢献を果たしたいと考えております。

世界各地の民族をフィールドとする博物館の活動は、いうまでもなく民族学・文化人類学とともに、その博物館が置かれた社会の、異文化に対する関心のもちかたと密接につながりながら展開されてきました。地球規模で多面的な文化の交流が進み、多文化・多文明の共存が求められている現在、博物館展示につきましても、一方的に収集品を展示するのではなく、表象される文化の担い手である現地の人びと、異文化を表象する立場にある本館のスタッフ、さらには展示を見に来られる来館者、これらの三者が交わり、相互に啓発する場として広く開放していかなければなりません。

同時に、現代にいたるまで変貌し交流してきた文化と社会を、ダイナミックなかたちで表現しなければなりません。本館は、こうした新たな展示構想をつくり上げ、その実現に向けて着手したところであります。

本館の研究と展示が完成することはありえません。私たちは、いまだに成長の段階にあります。文化も民族も自在に行き交う今日、民族学・文化人類学が果たすべき課題は多様になり、その成果を一層市民にわかりやすく提供することが期待されています。私たちは、異なるものへの寛容と共感を求めて、広く社会とともに歩むことを本館の使命であると考えております。

成長の一つの節目として、開館30周年を迎えることができましたことを、ここにあらためて感謝するとともに、これからも成長しつづける国立民族学博物館に対して、みなさまの変わらぬご支援とご指導をお願いしまして、私のご挨拶とさせていただきます。


平成19年11月14日
国立民族学博物館 館長 松園万亀雄