The National Museum of Ethnology (Minpaku) is a research center for ethnology and cultural anthropology.

Senri Ethnological Reports (SER)

No.71 The Twentieth century in Mongolia 2

August 28, 2007 Publication

Yuki Konagaya

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刊行の目的および意義

近代化ならびに社会主義という使い古された2つの語彙を改めて組み合わせ、「社会主義的近代化」(Socialist Modernization)という概念を提示しつつ、20世紀の歴史を捉えてみると、地球上の広範な地域で経済格差を是正しようとする開発が試みられてきた人類史を国際的に比較しながら把握できるに違いない。本書は、そうした社会主義的近代化に関する比較考察を行うための、モンゴルに関する基礎資料である。
文化人類学の得意とする手法とされてきたオーラルヒストリーの方法を用いて社会主義的近代化の歴史を復元するという作業は、すでに産業化に関する3本のロングインタビューを中心にして、SER41号(日本語)およびSER42号(モンゴル語)で『モンゴル国における20世紀―社会主義を生きた人びとの証言』と題して刊行した。本書はその第2段として、政治闘争に関するロングインタビュー6本をまとめたものである。
社会主義下のモンゴル人民共和国時代、覇権争いをめぐる政治闘争が繰り返されていた。中でも1964年の人民革命党中央委員会第6回総会におけるローホーズやニャンボーの抗議行動は、スターリンの死後、フルシチョフによるスターリン批判とともに広がる自由な雰囲気を受けて、チェコスロバキアにおけるプラハの春に先行して、社会主義のあり方そのものをめぐる政治闘争であったという点で特筆に価する。当時、抗議した人びとは地方に追放されたものの、幸いにして獄死しなかったため、今日、生の声で証言を得ることができた。同時に、立場の異なる人びとの証言も採録した。そうすることによって、多様な立場の政治家による多声性を確保している。
40年の長きにわたって政権を維持していたユムジャーギーン・ツェデンバル書記長に対して、果敢に闘いを挑んだ当事者たちの証言を中心に、当該書記長の弟や、当該書記長の「取り巻き」として民主化後に批判された政治家たち等の証言も含めて、社会主義とは何であったかを立体的に浮き彫りにする基礎資料となっている。
政治家たちの証言から、独裁的な体制を維持するための政治的手法が了解されるとともに、追放者が裕福になるエピソードを通じて、社会主義がどのような経済活動を禁じてきたか、すなわち経済的に破綻してゆく理由もまた了解されるであろう。

 

目次

「語り直し」される社会主義の歴史
Ts.ローホーズ
 ……………… 追放を生き抜いた政治家
B.ニャムボー
 ……………… 正直を貫いた政治家
Y.アヨーシ
 ……………… 偉大な兄をもった平凡な弟
S.ジャランアージャブ
 ……………… 遠ざけられた側近
D.ソドノム
 ……………… モンゴルにおける社会主義的発展の幕を引いた政治家
P.オチルバト
 ……………… 新生モンゴル国の初代大統領
あとがき
 

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