国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

客員研究員の紹介

スッバイヤー・シャンムガン・ピッライさん
Subbiah Shanmugam Pilli

紹介者:杉本良男(先端人類科学研究部教授)
都市的状況における新しい宗教

スッバイヤーさんは、前回1998年についで、民博にとって2度目のお客様です。
先生は、昨年の6月に24年間勤務された南インド、タミルナードゥ州のマドラス大学地理学科を定年退職されました。しかし、1997年に就任された同大学 の日本研究センターのお世話はつづけておられますし、1980年以来、長年つとめられてきたIndian Geographical Journalのeditorの仕事も当分継続されることになっています。定年をむかえられたとはいえまだまだ現役で、かえって自由な時間がふえたこと で、これまでできなかった仕事をひとつひとつ完成させようと意欲にあふれています。
先生は、マドラス大学地理学科がタミルナードゥ州の要請のもとに遂行してきた、同州全域にわたる人文地理学的研究プロジェクトの実質的責任者として、研究 を指導してこられました。専門領域は、地形学(Process Geomorphology)、農業地理学(Agricultural Geography)、および地理学情報システム論(Geographic Information System, GIS)です。ここ十数年来はとくに、カナダのウォータールー大学との共同研究で、地理学情報システム(GIS)の開発を継続的におこない、大きな成果を あげてこられました。

日本人研究者との共同研究

スッバイヤーさんは大の日本びいきで、日本人研究者との関係も深く、共同の調査研究を積極的にすすめるほか、多くの日本人研究者・学生のお世話もつづけて こられました。先生はよく、地理学というのはどんな研究分野の人とも交流ができる柔軟な学問なのだといわれますが、じっさい地理学はもちろん、歴史学、人 類学、経済学など幅広い専門研究者との交流をつづけてこられました。さまざまな事象に幅広い関心を持たれ、また政治経済から宗教文化にいたるまで、中立的 かつ批判的な見方をされるので、人類学的な研究についても、ずいぶん参考にさせていただいたことがあります。
現在は、都市地理学的な関心を持たれ、とくにマドラスの公団住宅における人の動きについての研究プロジェクトなどをすすめておられます。また、日本の人類 学者、関根康正氏(日本女子大)などとの共同研究として、マドラス(チェンナイ)市における、都市的状況のなかでのあらたな宗教・信仰の形態についての実 態調査もおこなっています。とくに、マドラス市内における路傍の小祠や、企業・商店の敷地などに設けられる神祠などの調査を精力的におこなってこられまし た。
今回の来日では、私もふくめた日本人研究者との共同研究で、現代の都市的状況における新しい宗教・信仰のあり方についての調査研究をすすめ、その成果をま とめることが第一のミッションです。さらに、前回の来日時に少し手をつけられた日本の公団住宅の研究も、マドラスとの比較の意味でつづけられるご予定で す。

厳格な菜食主義者

スッバイヤーさんは、タミルナードゥ州の南部ティルネルヴェリ県のご出身で、厳格な菜食主義者です。牛乳・チーズなどはOKですが、肉、魚はもちろん、卵 も食べられません。今回も奥様が同行されているのでほぼ問題はありませんが、外食をするときなどはひどく難渋されるようです。とくに、和風の食事のだし や、海苔・海草なども摂れないというのは、私たち日本人にとって本当に意外なところです。
先生はおふたりのお嬢さんをおもちですが、おふたりとも結婚してアメリカに住んでおられます。お子さんが手をはなれたいま、長年夢見てこられた自由な時間を有効に活用し、ますます旺盛な活動をつづけられることでしょう。

スッバイヤー・シャンムガン・ピッライ
  • スッバイヤー・シャンムガン・ピッライ
    Subbiah Shanmugam Pilli
  • 1942年生まれ。
  • 前マドラス大学地理学科教授。
  • 2002年11月から2003年11月まで国立民族学博物館客員部門教授。
  • 研究テーマは、「南インド、タミルナードゥ州における都市的宗教の研究」。
『民博通信』第100号(p.28)より転載