映像民族誌のナラティブの革新
キーワード
映像民族誌、ナラティブ、革新
目的
近年、民族誌映画祭を中心とした国際的な研究交流が、メディアアートや映画界をも包摂しつつ、世界各地で盛んに展開し、人類学における新たな理論潮流が生み出されている。本研究の目的は、これらの国際的な研究動向を踏まえ、人類学、映画、アートの実践が交差する場から、文化の記録と表象における表現の地平を理論的・実践的に開拓することである。本研究では、映像人類学の各学派の研究潮流の分析、アートや映画界における人類学的に援用可能な方法論の考察を行う。そして、共同研究のメンバーが実践する民族誌映画制作、音や写真のインスタレーション等の報告、議論を経て、映像民族誌の新たなナラティブを創造し、人類学および隣接する学問へその可能性を提言する。
研究成果
本共同研究では、メンバー各自がとりくむ映像民族誌やインスタレーションについて発表を積み重ね、各自の目的や問題意識に則した制作方法論、人類学的な知へのオーディオヴィジュアルなアプローチについて理論的・実践的な議論を行った。適宜、アーティストやアートキュレーターを特別講師として招聘し、アートや映画界における人類学的に援用可能な映像表現に関して意見交換した。
共同研究メンバーを中心に、以下の国際会議の場や、学術雑誌における企画を実行した。
まず、日本文化人類学会50周年記念国際研究大会(IUAES 2014、於:幕張メッセ、2014年5月)にて『New Horizon of Anthropological Films from Japan』と題した上映プログラムを行い、各国の映像人類学者と民族誌映像の制作方法論や活用に関する議論を行った。そこでは、作品内における文字情報(ナレーション、あるいは解説字幕)の様式や研究者のパフォーマンス(立ち振る舞い、被写体との会話を含むインタラクション)の見せ方、或いは、次世代に向けた無形文化の記録保護というパースペクティブからの作品活用のありかたについての議論を行った。
また、カルチュラル・スタディーズ学会機関紙『年報カルチュラル・スタディーズ』第3号(2014年6月刊行)、さらに日本文化人類学会機関誌 『文化人類学』80巻1号(2015年6月)に本共同研究メンバーによる論文特集が掲載された。上記2つの特集では、個別具体的な民族誌映画の制作と公開の実践を、それぞれの研究者の研究意義と照らし合わせて考察した。映像民族誌における議論は、視聴者の存在や役割を軽視する傾向にあった。それに対して、学術雑誌における以上の特集企画では、映画の制作と公開をめぐる議論をとおして生まれる、研究者と調査対象の人々との関係性の変化、あるいは映画公開によって創出される社会との新たなつながり、について考察した。作品を、被写体や、それを視聴する人々との創発的な営みのプロセスにあると位置づけ、映像実践をともなう人類学研究の可能性について検討した。
2015年度
平成27年度は3回の研究会を開催する。主に、メンバー各自がとりくむ民族誌映画やインスタレーションについて発表する。そこでは、各自の研究目的や問題意識に則した映像制作やインスタレーションの方法論、人類学的な知へのオーディオヴィジュアルなアプローチ、さらには、アートや映画界における人類学的に援用可能な方法論の考察に関して理論的・実践的な議論を行う。それらの作品を広く社会に還元したときに得られたリアクション等に関しても報告を行う。同時に、成果公開の内容や方法に関する検討を中心に行う。
【館外研究員】 | 伊藤悟、春日聡、小林直明、佐藤剛裕、田沼幸子、丹羽朋子、分藤大翼、村橋勲、柳沢英輔、森田良成 |
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研究会
- 2015年6月13日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
- 成果出版に関する打ち合わせ
- 矢野原佑史「実験的民族誌映画 Fieldnoteの上映」
- 分藤大翼「作品の構想発表」
- 村橋勲「難民村の生活-映像制作の構想発表」
- 川瀬慈「イメージへの亡命――声とサウンドによるパフォーマンスの試み――」
- 総合討論
- 2015年11月21日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
- 成果出版に関する打ち合わせ
- 森田良成(大阪大学) 『言葉で伝えることと映像で伝えること』
- 田沼幸子(首都大学東京)『マンチェスターの理想、バルセロナの現実――学んだことと実際』
- 田坂博子(東京都写真美術館)『恵比寿映像祭について』
- 総合討論
- 2016年2月28日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第7セミナー室)
- 出版に関する打ち合わせ(全員)
- 藤井光「映像の試み『帝国の教育制度』」
- 丹羽朋子(人間文化研究機構)「映像アーカイブを現代社会にひらく――『20世紀の映像百科事典エンサイクロペディア・シネマトグラフィカを見る』連続上映会での実験から」
- 総合討論(全員)
研究成果
メンバー各自がとりくむ映像民族誌やインスタレーションについて発表を積み重ね、各自の目的や問題意識に則した制作方法論について理論的・実践的な議論を行った。個別具体的な映像民族誌の制作と公開の実践を、それぞれの研究者の研究意義と照らし合わせて考察した。映像民族誌における議論は、視聴者の存在や役割を軽視する傾向にあった。そのような流れに対して、本共同研究では、映画の制作と公開をめぐる議論をとおして生まれる、研究者と調査対象の人々との関係性の変化、あるいは映画公開によって創出される社会との新たなつながり、について考察した。作品を、被写体や、それを視聴する人々との創発的な営みのプロセスにあると位置づけ、映像実践をともなう人類学研究の可能性について検討した。
日本文化人類学会機関誌 『文化人類学』80巻1号に本共同研究メンバーを執筆陣とする特集「人類学と映像実践における新たな時代に向けて」を発表した。
2014年度
平成26年度は3回の研究会を開催する。メンバー各自がとりくむ民族誌映画やインスタレーションについて発表する。そこでは、各自の目的や問題意識に則したモンタージュ法、人類学的な知へのオーディオヴィジュアルなアプローチ、さらには、アートや映画界における人類学的に援用可能な方法論の考察に関して理論的・実践的な議論を行う。また、映像人類学の理論潮流に影響を与える主要研究機関の作品を視聴し、各学派の映像ナラティブの分析と研究動向に関する考察を行う。適宜、研究者やメディアアーティスト、映画監督を特別講師として招聘し、研究発表に対するアイデアや批判を受け付ける。
【館外研究員】 | 伊藤悟、春日聡、小林直明、佐藤剛裕、田沼幸子、丹羽朋子、分藤大翼、村橋勲、柳沢英輔、森田良成 |
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研究会
- 2014年7月6日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第7セミナー室)
- 川瀬慈(国立民族学博物館)「はじめに-Sensory Turnの人類学への返答-」
- 分藤大翼(信州大学)「第12回ゲッティンゲン国際民族誌映画祭報告」
- 佐藤剛裕(明治大学)「NGAGPA STYLE ~ヒマラヤの在家密教行者の世界~」粗編集版の発表/ブラッシュアップ
- 村橋勲(大阪大学)「これまでの作品紹介と今後の撮影計画:南スーダンと「難民」の映画製作に向けて」
- 丹羽朋子(東京大学)「フィールドワークの経験を「展示」する―「窓花/中国の切り紙」展における映像実践」
- 柳沢英輔(国立民族学博物館)「実験的な民族誌映画における音・身体・環境」
- 久保田テツ(大阪大学)総評
- 2014年10月13日(月・祝)10:00~18:00(国立民族学博物館 第7セミナー室)
- 川瀬慈「趣旨説明」
- 伊藤悟「映画『Sensing the Journey of the Dead』上映」
- 小林直明「なぜ、映画をつくることが人を元気にするのか:『市民映画』の成果と展望」
- 春日聡「映画『Sekala Niskala スカラ=ニスカラ』上映」
- 下道基行(特別講師)「すぐ目の前にある”見えない風景”」
- 藤井光(特別講師)「映画「ASAHIZA」の抜粋上映」
- 総合討論
- 2015年1月25日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1会議室)
- 伊藤悟 映像作品「Sensing the Journey of the Dead」
- 春日聡 映像作品「スカラ=ニスカラ――バリの音と陶酔の共鳴」
- 下道基行 口頭発表「すぐ目の前にある『見えない風景』」
- 小林直明 口頭発表「なぜ、映画をつくることが人を元気にするのか――『市民映画』の成果と展望」
- 川瀬慈+伊藤悟「トロムソ大学映像文化学科の研究動向、第8回Cinema Verite 国際ドキュメンタリー映画祭(イラン)の報告」
研究成果
平成26年度は計2回の会合を開催し、映像人類学の各学派の研究潮流に関する発表、共同研究員の制作した、あるいは制作過程の作品の発表、さらにはアート界からの招聘講師による発表等を行った。5月には、日本文化人類学会50周年記念国際研究大会(IUAES 2014 合同開催) 映画上映プログラム『New Horizon of Anthropological Films from japan』において、共同研究員4名が制作した研究作品を発表し、各国の映像人類学者と制作方法論に関する活発な議論を行った。その後の出版や上映企画につながる研究交流の場となった。また3月には、日本映像民俗学の会第37回大会において、共同研究員3名が実行委員として運営に携わり、映画界や様々な分野の研究者と、映像民族誌のナラティブに関する議論を行った。関連する出版としては共同研究員による映像人類学の制作方法論に関する論稿を含む2冊の著作を出版した。
2013年度
初年度は1回の会合を持つ。そこでは、代表者の川瀬が本研究の趣旨説明と問題提起を行い、共同研究メンバーの役割と研究会の進め方、研究発表の見通しについて確認する。
【館外研究員】 | 伊藤悟、春日聡、小林直明、佐藤剛裕、田沼幸子、丹羽朋子、分藤大翼、村橋勲、森田良成、柳沢英輔 |
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研究会
- 2014年3月1日(土)14:00~17:00(国立民族学博物館 大演習室)
- 川瀬慈(国立民族学博物館)「映像民族誌の新たな時代に向けて」
研究成果
初年度は1回の会合を持った。そこでは、代表者の川瀬が本研究の趣旨説明と問題提起を行い、共同研究メンバーの役割と研究会の進め方について説明をした。その後、各メンバーがプレゼンテーションを行い、各自が現在取り組む研究プロジェトのおおまかな紹介と、今後の研究の展望を示し、メンバー間で意見交換を行った。各自のプロジェクトの発展にむけた建設的な議論、成果公開の方法に関する意見交換、国際的な研究交流とネットワーク構築を基本軸に据え、メンバー間で連携して本研究をすすめていくことを確認しあった。