国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

境界領域における民俗芸能の教授・創生に関する研究:奄美諸島の高等学校を中心に(2014-2016)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 呉屋淳子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、「鹿児島/沖縄」の境界に位置する奄美諸島の高等学校における民俗芸能の教授と創生に着目し、境界領域であるが故に生じる民俗芸能の新しい継承過程の様相を明らかにすることである。
奄美諸島の各地域は、鹿児島県や沖縄県の影響を認めつつも、どちらか一方に帰属することはないという重層的でマージナルな文化的特徴を有している。そのうち芸能に関しては、徳之島以北が大和系、沖永良部以南が琉球系の芸能の影響を受けて展開してきた。本研究は、奄美諸島内部の文化的特徴に焦点を当て、民俗芸能の教授と創成する様相を学校教育から示し、学校教育の果たす役割と機能の検討から、民俗芸能の持続的な継承の可能性を検討する。

活動内容

◆ 2015年4月より転出

2015年度実施計画

平成27年度の文献調査では、前年度の文献調査を継続しながら、周縁(奄美諸島)と中央(鹿児島)の関係性を歴史的文化的側面を理解するための資料として、中央(鹿児島)に居住する奄美諸島の郷友会関係資料も収集する。また、鹿児島の民俗芸能の保存会の活動に関する資料も収集する。
平成27年度のフィールドワークは、前年度の現地調査を継続しながら、学校現場における現地調査は喜界高校、徳之島高校を中心に参与観察および聞き取り調査を行う。その際、高校生を中心とした琉球系の芸能の実践がいつから導入されたのかを文献資料の検討と学校関係者や地域住民の聞き取り調査から明らかにし、境界領域における大和系芸能と琉球系芸能の実践的教育の実態について再考する。

2014年度活動報告

平成26年度は、奄美諸島の学校教育における民俗芸能の教授が、現代奄美諸島の人々の日常における文化的実践のなかでどう位置づけられているかについて、奄美諸島内の高校を卒業した生徒たち(奄美大島、与論島、徳之島、喜界島)を対象に聞き取り調査を行った。
沖縄本島北部にある名桜大学が2010年度に公立大学に変わり、奄美諸島地域からの入学生の増加がみられることが確認された。これは、大学の公立化に伴う変化である。このような変化は、奄美出身の大学生を対象にした一部の調査であるが、少なからず奄美の民俗芸能に対する捉え方にも影響を与えていることが確認された。つまり、このような教育機関や教育制度による影響は、奄美諸島出身の学生の進路選択だけでなく、奄美諸島の民俗芸能が創作される背景にも見られた。
また、平成26年度は、かつて南米移住した沖縄系日系人(3世の学生)を考察の対象に加えたことによって、奄美諸島内部の教育機関で行われている民俗芸能の取り組みを、より詳細に分析することができた。このような移民社会を分析の対象としたのは、奄美における民俗芸能の継承とその教育に関わる実体を把握する際、沖縄および八重山、宮古の事例と比較するだけでなく、沖縄系日系移民社会も比較の対象に加えることによって、より現代奄美社会を理解することが可能になると考えたからである。