国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

民族的モノの再生と保存に関わる人類学的研究――トルコ絨毯の修繕と展示を中心にして(2012-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 田村うらら

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、トルコ絨毯というグローバルな価値をもつ民族工芸品の再生と保存の営みを、トルコ国内外において仔細に検討することを通して、民族的・ローカルなモノが、生産の文脈を離れて流通し消費される際に、いかにモノが捉え直され、モノが人びとを組織するかを明らかにすることである。さらに、絨毯生産における共同性、絨毯生産者たちの絨毯消費の社会性、絨毯流通における価値の交渉と再交渉という申請者のこれまでの研究と連結させることにより、ローカルなモノの意義を多面的に明らかにし、かつそれらが現代において創造的に再生産され続ける条件の理論化を目指す。なお、より広い文脈における本研究の目的は、以下2点に要約される。
(1)第一に、経済人類学と物質文化研究の接点において、人間文化の基層を探る、新たな地平を切り拓くことである。
(2)第二に、申請者自身の従来の調査研究を土台として、現代の諸民族文化の多様性に対する、悲観的な消滅の語りと、主体的で政治的な「文化の客体化」の語りを乗り越え止揚することにより、民族手工芸品の新たな存続の可能性を探るという点である。第2の点を強調するならば、本研究が、販売額や収入の増加などという市場価値と直接的に連動する数字によってのみ測られてきた文化保護/復興のあり方を転換する契機に繋がれば、文化人類学的社会貢献として意義深いことと考える。商品性がローカルな文脈での価値を瓦解させないバランス点を一定程度理論化することに成功すれば、市場経済に従属しすぎず、かつ内発的な創造性を確保しうる、現代的伝統文化のより自律的で(必ずしも市場経済世界における他者を志向しない)創造的な方向性の基礎理論となりうるだろう。

活動内容

◆ 2013年4月より転出

2012年度実施計画

■人類学および社会学等の、グローバリゼーション論、モノ研究、消費社会論などに関わる文献精読をさらに進め、論点を整理する。
■博士論文のうち、労働交換や協働についての分析を主軸に論文を執筆、『アジア・アフリカ言語文化研究』/『文化人類学研究』に投稿する。
■夏季および冬季にのべ3ヶ月程度、トルコ国内の絨毯商/絨毯修繕師を対象としたフィールドワークを実施する。
■第20回インディアナ大学中央ユーラシア研究会議(2013年3月開催予定)にて、トルコ絨毯のローカルな生産/消費について発表し、意見交換を行なうと同時に、調査に向けての情報収集とネットワーク構築を行なう。