応援の人類学――政治・スポーツ・ファン文化からみた利他性の比較民族誌
キーワード
応援、利他性、民族誌
目的
本研究は、応援という切り口から、人類学的研究領域の拡大を図り、人間文化の特質の一端を解き明かすことを目的としている。実践的な関心とも関係する開発援助から福祉やケアサービスなど「支援」に関する研究や、アニメなど現代風俗のファン文化に関する研究は、人類学のみならずさまざまな学問分野において近年数多くなされている。本共同研究会では、こうした個別研究を横断的に架橋して、政治やスポーツにおける応援まで含めたうえで、人間にとっての利他性の特質にも迫りたい。応援(support)という行為一般を対象とするが、さしあたり政治・スポーツ・ファン文化の下位領域に分けて焦点を当て、民族誌的データをもとに比較分析を行う。
研究成果
3年半の共同研究会のあいだに、合計12の研究会を開催し、22回(20名)の発表を行った。内訳は学校応援団関係(10回)、スポーツ関係(4回)、芸能関係(3回)、政治関係(4回)、応援の概念関係(1回)という、政治・スポーツ・ファン文化からみた利他性という研究課題を念頭に置きつつも幅広いテーマから発表がなされた。スポーツも、サッカー、野球、アイスホッケー、トライアスロンと近年グローバルに拡散しているスポーツを中心に複数取り扱うことができた。日本における組織的応援を軸に、スポーツ、芸能、政治などの具体的な応援の様態を分析することで、応援という文化を考察するという本研究課題を遂行した。
研究成果としては、査読付き投稿論文を『国立民族学博物館研究報告』に代表者及び共同研究員がそれぞれ一本ずつ掲載した(丹羽典生「日本における応援組織の発展と現状――四年制大学応援団のデータ分析を中心とする試論」、前川真由子「オーストラリアの反捕鯨思想と人々の考える『理想的なオーストラリア』」)。また『民博通信』に代表者及び共同研究員がエッセイを合計4本掲載した(丹羽典生「応援の人類学の挑戦」、「応援を考える――人間と感情の動員という視点から」、「応援におけるノリと近代――沖縄の高校野球を中心に」、吉田佳世「大学応援団におけるバンカラ文化と女子学生の参入」)。口頭での発表としては、第124回みんぱく友の会講演会における「野次から応援へ――応援の比較文化論の試みから」がある。
2018年度
本年度は、最終年度ということで研究発表と共に成果公開に向けた話し合いを行う。2回の研究会を予定している。研究発表ではこれまでの共同研究での不足を補う。たとえば応援という視点から見たとき、日本の高校における応援団の活動については、あまり触れてこれなかった。歴史的に旧制中学の応援団と関係してくるため重要なトピックであり、その点を補いたい。またファン文化に関する研究も、事例をあまり取り上げられていなかった。そこでこれらを主題とする研究発表を予定している。最終的には、これまでの議論を踏まえながら、成果公開に向けて、全員で議論を行う。
【館内研究員】 | 笹原亮二、三尾稔 |
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【館外研究員】 | 岩谷洋史、梅屋潔、小河久志、風間計博、亀井好恵、木村裕樹、熊田陽子、瀬戸邦弘、高野宏康、高橋豪仁、立川陽仁、椿原敦子、永田貴聖、難波功士、前川真裕子、山田亨、山本真鳥、吉田佳世 |
研究会
- 2018年7月28日(土)14:00~18:30(国立民族学博物館 第4演習室)
- 永田貴聖(大阪国際大学)「外国人移住者と関わる人びと――T国際交流センターの活動に参加するボランティアや支援者たちへの考察」
- 質疑応答
- 全体討論
- 出版に向けた打ち合わせ
- 2018年12月22日(土)13:30~18:45(国立民族学博物館 第4演習室)
- 戸田直夫(大阪大学)「大学応援団における吹奏楽――関西学院大学の事例を中心に(仮)」
- 質疑応答
- 小河久志(金沢星稜大学)「ある戦後新設高校応援団の興亡史――旧制中学系高校との関係に注目して(仮)」
- 質疑応答
- 全体討論
研究成果
今年度は成果公開に向けての打ち合わせと並行して、通常の研究発表も行った。いずれも応援する組織の研究を中心に行ってきたこの研究科において、手薄であった大学応援団における吹奏楽部の歴史と現状について、高等学校という大学とは別の応援団の現状について扱いことで、事例をより多面的に扱うことができた。また、応援という行為についても、これまでの研究で支援と呼ばれてきてたであろうボランティア活動などの視点から考察することで、概念としての幅についても批判的に検討することができた。
出版物として、『民博通信』に「応援におけるノリと近代――沖縄の高校野球を中心に」にて、日本の高校野球野球の地方色を検討した。また、『国立民族学博物館研究報告』「日本における応援組織の発展と現状――四年制大学応援団のデータ分析を中心とする試論」にて、日本の大学応援団の活動をデータとして総攬する研究を公表した。口頭発表として友の会講演にて「野次から応援へ――応援の比較文化論の試みから」を行い、一般への成果の還元を行った。
2017年度
本年度は、4回の研究会を予定している。日本からは民俗学からみた応援現象、日本以外でのスポーツ応援の事例報告(アフリカとサッカー、カナダとトライアスロン、オセアニア少数民族の独立記念日など)をとりあげる。後半は、ファン文化という切り口からの議論を行い具体的には、ヤンキー、性風俗などを扱う。また、これまでの議論を踏まえて、パネル発表を含めたせいか公開のあり方を視野に入れつつ、研究会の指針と議論の中間確認を全員で行う。
【館内研究員】 | 笹原亮二、三尾稔、永田貴聖 |
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【館外研究員】 | 岩谷洋史、梅屋潔、小河久志、風間計博、亀井好恵、木村裕樹、熊田陽子、瀬戸邦弘、前川真裕子、高野宏康、高橋豪仁、立川陽仁、椿原敦子、難波功士、山田亨、山本真鳥、吉田佳世 |
研究会
- 2017年7月2日(日)13:30~18:30(国立民族学博物館 第4演習室)
- 難波功士(関西学院大学)「パフォーマーを応援するパフォーマンスの系譜――親衛隊からヲタ芸まで」
- 質疑応答
- 笹原亮二(国立民族学博物館)「芸能と観客の諸相――芸能を観ることと観客になることを巡って」
- 質疑応答
- 全体討論
- 2017年10月21日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第4演習室)
- 風間計博(京都大学)「バナバ人の歴史歌劇にみる共感の力(仮)」
- 質疑応答
- 亀井好恵(成城大学)「踊り手のパフォーマンスの変容――桐生八木節まつりを例にして(仮)」
- 質疑応答
- 総合討論
- 2017年12月9日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 梅屋潔(神戸大学)「アフリカン・サッカーの応援――「災因論」と「福因論」の観点から見た」
- 質疑応答
- 立川陽仁(三重大学)「アイスホッケーのファイティングは応援か」
- 質疑応答
- 総合討論
- 2018年2月10日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 丹羽典生(国立民族学博物館)「ノリをめぐる身体の政治学――高校野球における『沖縄らしい』応援の形成とその問題」
- 質疑応答
- 熊田陽子(首都大学東京)「性風俗世界における『応援』の一考察――男性客によるタニマチ的行為に見る『自己』と『他者』の在り方」
- 質疑応答
- 総合討論
研究成果
今年度は、これまでの成果を踏まえて応援についての広がりを見るために、世界各地の事例を取り上げた。アフリカのサッカー、アメリカのアイスホッケーの分析から応援の地域的な特質について指摘がなされた。またオセアニアのバナバ島の歌劇の上演から応援という行為に伴う情動の側面について理論的な議論がなされた。それ以外では、人類学以外の学問分野である民俗学やファン文化の研究から、それぞれの視点から見えてくる応援の事例について検討がなされた。前者では闘牛における掛け声や八木節の上演における合いの手の変容などが題材とされた。こうした民俗学的な知見はえてして日本文化の基層的側面とされることがあるが、各発表ではむしろそれらの変化が積極的に分析の遡上にあげられ、いまの日本で平均的な応援の所作として想像されがちな身体行為の歴史的連続性と断絶が明確にされた。後者ではアイドルファンによる応援のための組織である親衛隊が取り上げられ、その誕生と消滅が議論された。いわゆる大学応援団にみられる応援所作や組織的特徴との類似性が顕著であり、応援を文化的事象として見ていく際には、ファン文化などの他者に対してコミットする行為の広がりの中で見検討することの必要性が確認された。
2016年度
応援について民族誌的にアプローチする。各メンバー及び特別講師を含めて毎回2名程度の発表者と何名かのコメンテイターを依頼して進めていく。本年度は、応援という現象をどう人類学的にアプローチするかという最終的な方向性を念頭に置きながら、主として事例研究に基づく発表を4回予定している。各回は、日本の大学応援団、スポーツと応援、政治と応援などの大まかな枠組みを意識しつつ、研究会を組織することで、行っていく。
【館内研究員】 | 笹原亮二、三尾稔 |
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【館外研究員】 | 岩谷洋史、梅屋潔、小河久志、風間計博、亀井好恵、木村裕樹、熊田陽子、瀬戸邦弘、前川真裕子、高野宏康、高橋豪仁、立川陽仁、椿原敦子、難波功士、山田亨、山本真鳥、吉田佳世 |
研究会
- 2016年6月11日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 大演習室)
- 吉田佳世(神戸大学)「変転する女性像――日本の大学応援団における女子団員の参入とその変遷」
- 質疑応答
- 木村裕樹(龍谷大学)「「団史」のなかの応援団――「応援歌」をめぐる予備的考察」
- 質疑応答
- 総合討論
- 2016年10月1日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 大演習室)
- 高橋豪仁(奈良教育大学)「スタジアム空間の統治――統制される観客と管理される私設応援団」
- 質疑応答
- 瀬戸邦弘(鳥取大学)「応援団という空間とその世界観」
- 質疑応答
- 全体討論
- 2016年12月10日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 山田徹(筑波大学)「参加型スポーツにおける応援――トライアスロンイベントを事例として」
- 質疑応答
- 高野宏康(小樽商科大学)「近代日本における政治演説と雄弁家――永井柳田郎を中心に」
- 質疑応答
- 全体討論
- 2017年2月25日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 椿原敦子(龍谷大学)「デモと応援――A. オングのvicarious概念を手がかりに」
- 質疑応答
- 前川真裕子(神戸大学)「オーストラリアの反捕鯨キャンペーンにみる応援の政治学」
- 質疑応答
- 全体討論
研究成果
今年度は、4回の共同研究会を開催した。これまでは応援という現象を考える上で比較的理解しやすいスポーツの領域の事例を中心的に取り上げてきた。今年も引き続き大学の応援団の事例が取り扱われ、バンカラなイメージを代表する応援団が現在では女性の参入が必要不可欠となっている現状とそれに至る歴史的経緯について検討された。また応援団にはつきものの各種の歌(応援歌、学生歌、寮歌)について、幅広く資料を取りそろえた研究発表が行われた。
スポーツも学生スポーツの枠に留まらず、プロスポーツ(野球など)やアマスポーツ(トライアスロンなど)の現場における応援についても対象として取り上げ、議論がなされた。さらに今年度の後半はいると、政治という文脈における応援の現象の特徴にも着目する研究発表が行われた。それらのスポーツの領域との違いについて、日本、オーストラリア、アメリカなどの事例紹介を通じて検討した。
2015年度
研究会を2回開催する。初回は研究代表者の丹羽典生が研究会の趣旨を説明する。また目指される研究枠組みについて、各参加メンバーと方向確認・意見交換を図る。第2回目は、応援を比較文化として論じることの意義を、申請者が平成26年にAnthropology of Japan in Japanで組織したパネルに基づいて、日本の大学応援団を事例に報告する。初年度は以上の活動を通じて翌年以降の研究会の土台作りを行う。
【館内研究員】 | 笹原亮二、三尾稔 |
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【館外研究員】 | 岩谷洋史、梅屋潔、小河久志、風間計博、亀井好恵、木村裕樹、熊田陽子、瀬戸邦弘、高橋豪仁、高野宏康、立川陽仁、椿原敦子、難波功士、前川真裕子、山田亨、吉田佳世 |
研究会
- 2015年10月24日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
- 丹羽典生(国立民族学博物館)「野次・喝采から応援へ――応援の人類学的研究に向けた試論」
- 質疑応答
- 全員「各自の研究紹介及び今後の予定の検討」
- 2016年1月30日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 丹羽典生(国立民族学博物館)「応援文化という領域と特性――日本の大学応援団の変化から考える」
- 質疑応答
- 岩谷洋史(神戸大学)「選択されるパフォーマンス――大学応援団における身体的動作を通じての考察」
- 質疑応答
- 全体討論
研究成果
研究会を2回開催した。初回は研究代表者の丹羽典生が研究会の趣旨を説明した。また目指される研究枠組みについて、各参加メンバーと方向確認・意見交換を図った。「応援」という言葉で意図する研究対象の領域の幅を検討し、組織化、ジェンダーの偏り、文化表象とアイデンティティなど研究会全体として見ていきたい項目について、議論を行った。第2回目は、応援を比較文化として論じることの意義を、申請者が平成26年にAnthropology of Japan in Japanで組織したパネルに基づいて、日本の大学応援団を事例に報告した。応援という現象を見るときに個人と組織という軸で見る必要があること、アイデンティティ表象と関わる側面に注目していきたいなど、以上の活動を通じて翌年以降の研究会の土台作りを行った。