国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

考古学の民族誌――考古学的知識の多様な形成・利用・変成過程の研究

研究期間:2015.10-2019.3 代表者 ジョン・アートル(ERTL, John)

研究プロジェクト一覧

キーワード

考古学、多様性、科学技術社会論

目的

考古学は一般に過去についての科学的な研究と捉えられている。しかし同時に、考古学的知識や出土品が、時に観光資源として利用され、国家・民族をめぐる政治と結びつくように、現代を形作る実践的な学問でもある。この「科学としての考古学」と「社会実践としての考古学」の間の緊張関係をめぐって、考古学者も、植民地主義やナショナリズムの歴史との関わり等、考古学の倫理ついて内省的な検討を始めているが、それらはまだ考古学内部にとどまっている。本共同研究では、考古学的知識が作られ、消費される、その多様なあり方を検証することによって、考古学がどのように社会関係や人々の世界観を形成し、変化させ、新たな景観をも作り出しているのかについての広範な理解を目指す。
そのために、次の3つの視点から複数フィールドにおける考古学的実践の民族誌・歴史的研究を行う。
(1)考古学的知識・技術習得のプロセスは、どのように個人のものの見方、コミュケーション、行為に影響を与えているのか。(2)発掘現場やラボで、出土品などのモノはどのように考古学的データに変換されるのか。(3)考古学は遺跡観光、国家・民族の歴史の修正、社会運動にどのような影響を与えているのか。

研究成果

1.「考古学の民族誌」とは何か、共通理解を構築した。考古学の民族誌と言った場合には、発掘調査が対象になることが多かったが、本共同研究会では、考古学についての知識が生成されるプロセスや、多様な利用にされるあり方も含めて民族誌の対象とすることを、人類学者とそれぞれのプロセスに関わっている考古学の実践者(考古学者、民族考古学者、考古科学研究者、博物館スタッフ、国際協力の中での文化遺産管理者)の間で確認した。
2.上記の共通理解のもと、必要に応じてゲストスピーカーを招聘し、「考古学における復元と表象」、「考古学におけるデータの多様性」、「日本人考古学者の外国における考古学的実践/海外からみた日本の考古学的実践」、「データの生成過程とその利用」、「考古学をパブリックに発信する」、「紛争地域における考古学と文化遺産」、「学校所蔵の考古学資料」、「理論考古学からみた考古学的実践」といったテーマで研究発表と議論を行い、参加者個々の研究・実践を横断するキーワードの設定(モノのライフヒストリー、ふくげん-復原/復元、データ・メイキング、考古学と社会的記憶、アートと考古学等)を行った。
3.成果公開出版に向けての準備作業を行った。成果公開出版は論文集の形とし、共同研究会参加者はそれぞれの論文の草稿、構想を発表し、共同研究会参加者との質疑応答、改稿に向けての議論を行った。考古学を人類学的にみると、考古学はデータ・メイキング・プロセスに始まり、考古学の成果が社会に消費されながら新たな社会を作り上げているもいる、そしてデータ・メイキング・プロセスもその社会に埋め込まれているが故に、社会はデータ・メイキング・プロセス影響を与えている。こうした本共同研究会が考える「考古学のプロセス」とそのサイクル全体について人類学的に論じた論文集を編集・刊行する方針を確認した。

2018年度

本年度は2回の研究会を予定している。具体的な出版に向けての研究会とする。各研究会では、これまでの研究会での議論をふまえて、執筆予定者による草稿の発表と議論を行い、本研究課題のコンセプトの明確化と、出版に向けての準備を加速させる。

【館内研究員】 関雄二、寺村裕史、ピーター J. マシウス
【館外研究員】 石村智、市川彰、岡村勝行、サウセドセガミダニエルダンテ、渋谷綾子、寺田鮎美、中村大、松田陽、溝口孝司、宮尾亨、村野正景、山藤正敏、吉田泰幸、米田穣
研究会
2018年7月28日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
共同研究成果公開出版の構想発表と討議
2019年1月12日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
共同研究成果公開出版の構想発表と討議1
2019年1月13日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 大演習室)
共同研究成果公開出版の構想発表と討議2
共同研究成果公開出版の構想発表と討議3
研究成果

共同研究会第九・十回は成果公開出版に向けての議論を行った。成果公開出版は論文集の形とし、共同研究会参加者はそれぞれの論文の草稿、構想を発表し、共同研究会参加者との質疑応答、改稿に向けての議論を行った。本共同研究会参加者個々の関心、見方を理解しながらも、それらを統合する論文集全体のテーマ設定を行った。考古学はデータ・メイキング・プロセスに始まり、考古学の成果が社会に消費されながら新たな社会を作り上げているもいる、そしてデータ・メイキング・プロセスもその社会に埋め込まれているが故に、社会はデータ・メイキング・プロセス影響を与えている、こうした本共同研究会が考える「考古学のプロセス」とそのサイクル全体について人類学的に論じた論文集を編集・刊行する方針を確認した。

2017年度

本年度は4回の研究会を予定している。本年度からは具体的な出版に向けての研究会とする。本共同研究では日本語によるものと英語によるもの、二種類を計画している。日本語によるものは「復元」について、英語によるものは"Archaeological Data Making Process"についてである。各研究会では、これまでの研究会での議論をふまえて、執筆予定者による草稿の発表と議論を行い、本研究課題のコンセプトの明確化と、出版に向けての準備を加速させる。

【館内研究員】 関雄二、寺村裕史、ピーター J. マシウス
【館外研究員】 石村智、市川彰、岡村勝行、サウセド セガミ ダニエル ダンテ、渋谷綾子、寺田鮎美、中村大、松田陽、溝口孝司、村野正景、山藤正敏、吉田泰幸、米田穣
研究会
2017年6月4日(日)10:00~17:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
米田穣(東京大学)「年代を測定するということ――考古学・科学・博物館」
宮尾亨(新潟県立歴史博物館)「現代に生きる火焔土器」
John Ertl(金沢大学) "Reconstructions in Jomon Sites Bid for World Heritage Inscription"
総合討論:出版計画・提案など
2017年11月19日(日)10:00~17:15(国立民族学博物館 第7セミナー室)
討議:出版計画・提案など
佐々木泰造「ジャーナリストから見た考古学」
譽田亜紀子「考古学『Translator』としての実情と葛藤」
2018年1月20日(土)12:00~18:00(国立民族学博物館 第2セミナー室)
サウセド セガミ ダニエル ダンテ(国立民族学博物館)「Multiple perspectives about archaeological sites in Peru: A study case in Lima City」
山藤正敏(奈良文化財研究所)「紛争下における文化遺産の破壊と復元:中東の諸事例」
村野正景(京都文化博物館)「『学校と考古学』の歴史と現状:京都の学校における考古資料の収集と活用を中心に」
研究成果

共同研究会第六回は、「データの生成過程とその利用」をテーマに、考古科学におけるデータ生成(米田穣)、火焔土器の利用な理解(宮尾亨)、世界遺産を目指す縄文遺跡群の復元に関する諸問題(アートル)についての講演の後、議論を行った。共同研究会第七回は、「考古学をパブリックに発信する」をテーマに、外部講師として考古学に関わる新聞記者(佐々木泰造)、フリーライター(譽田亜紀子)を招聘し、講演の後、議論を行った。共同研究会第八回は「世界各地におけるケーススタディ」として、南米の都市部の遺跡とパブリック(セガミ ダニエル ダンテ)、西アジアの紛争地域における遺跡保存と復元をめぐる問題(山藤正敏)、日本の学校所蔵の考古学資料の可能性(村野正景)についての講演の後、議論を行い、成果公開出版に向けての方向性を議論した。

2016年度

本年度は3回の研究会を予定している。第1回は「考古学教育とアイデンティティ形成」をテーマに開催する。この回では、大学や博物館などの教育機関、考古学遺跡、そしてメディアにおいて、考古学知識がどのようにパブリックに広がるのかを検討する。第2回は「考古科学を理解する」をテーマに開催する。この回では考古学のプロジェクトにおける様々なデータ生成過程に加え、それらのデータ生成方法が世界を体系化・分類する際に生じる誤解についても検討する。第3回は「ツーリズムと世界遺産が考古学遺跡のマネジメントと保存に与える影響」をテーマに開催する。この回では、大規模ツーリズムが遺跡に与えるポジティブな影響とネガティブな影響について検討する。いずれの回も共同研究メンバーの発表と討議だけでなく、各回のテーマに最適なゲストスピーカーを招聘して(調整中)、議論を深める。

【館内研究員】 関雄二、寺村裕史、野林厚志、ピーター J. マシウス
【館外研究員】 石村智、市川彰、岡村勝行、サウセド セガミ ダニエル ダンテ、渋谷綾子、寺田鮎美、中村大、松田陽、溝口孝司、村野正景、山藤正敏、吉田泰幸、米田穣
研究会
2016年6月25日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
開会 趣旨説明 (John Ertl,渋谷綾子)
ゲストスピーカーによる講演1 藤尾慎一郎(国立歴史民俗博物館)「歴史になった縄文・弥生時代の展示――相対年代から数値年代へ―」質疑応答
ゲストスピーカーによる講演2 後藤 真(国立歴史民俗博物館)「人文情報学と総合資料学――情報技術は人文学の方法論とどのような関係を持とうとしているのか―」質疑応答
話題提供1:中村大(立命館グローバル・イノベーション研究機構)「GISと縄文時代研究-北東北の後・晩期の事例を中心に」
ディスカッション
2016年6月26日(日)10:30~15:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
事例紹介:寺田鮎美(東京大学総合研究博物館インターメディアテク研究部門)「サイエンスをどう展示するか」
話題提供2:渋谷綾子(国立歴史民俗博物館)「微細植物遺体分析におけるデータ生成と解釈,誤解」
話題提供3:寺村裕史(国立民族学博物館)「考古学とオープンサイエンス―フィールドで取得したデータをどのように扱うのか―」
質疑応答
文献解題(司会:渋谷,Ertl)
ディスカッション
今後の研究会の進め方,次回の研究会について
連絡事項
閉会
2016年11月5日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
趣旨説明(ジョン・アートル、ダニエル・セガミ、山藤正敏)
基調講義:関雄二(国立民族学博物館)「ペルーの小村における考古学的プロジェクトから発生した社会的記憶」
事例紹介1:市川彰(名古屋大学)「メソアメリカ考古学と日本人研究者」
事例紹介2:ダニエル・セガミ(国立民族学博物館)「日本における外国考古学者の苦難」
事例紹介3:村野正景(京都文化博物館)「「アートと考古学」の導入と展開について―日本と中米の事例から―」
討論
2016年11月6日(日)10:30~15:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
事例紹介4:山藤正敏(奈良文化財研究所)「西アジアでの考古学:日本隊の60年」
講義:溝口孝司(九州大学)「世界の中の日本考古学」
総合討論:溝口孝司“A Future of Archaeololgy”(2015)を題材に
次回共同研究会について
2017年1月28日(土)10:00~17:30(国立民族学博物館 第3セミナー室)
アートル ジョン(金沢大学)、松田陽(東京大学)、岡村勝行(大阪文化財研究所)「開会 趣旨説明」
岡村勝行(大阪文化財研究所)「この共同研究はいかに日本、世界の現代考古学に資するのか?」
ピーター J. マシウス(国立民族学博物館)「Building a house without walls and roof: archaeological reconstruction from the perspective of plant domestication and crop history」
松田陽(東京大学)「なぜ(一部の)人々は遺跡を復元するのか」
アートル ジョン(金沢大学)「Aims and Outline of Joint Research Publication 1: "Archaeological Data Making" (tentative title)」
吉田泰幸(金沢大学)「出版物の目的と概要2:ふくげん―考古学的想像力がかたちづくるものがたり」
Discussion
研究成果

共同研究会第三回は「考古学におけるデータの多様性」をテーマとし、放射性炭素年代測定(ゲストスピーカー・藤尾慎一郎)、GISとデータベース作成(中村大、寺村裕史、国立歴史民族博物館・後藤真)、微細植物遺体分析(渋谷綾子)、科学展示(寺田鮎美)の実践者の講演の後、データベースに関する重要文献をもとに議論を行った。共同研究会第四回は「日本人考古学者の外国における考古学的実践/海外からみた日本の考古学的実践」をテーマとし、この視点からの中南米(関雄二、市川彰、村野正景)、西アジア(山藤正敏)、日本(ダニエル・セガミ)におけるケーススタディと、それを包括しうる溝口孝司による理論考古学の文献をもとに、議論を行った。共同研究回第五回は「本共同研究会の意義とその成果の発表方法」について、岡村勝行の問題提起をもとに改めて議論を行い、大きくは考古学的データの生成(具体例をピーター・マシウス、ジョン・アートルが発表)と復元(具体例を松田陽、吉田泰幸が発表)を軸にすることを確認した。

2015年度

本共同研究グループによる研究会は次の3つのタイプから構成される。

タイプ1.読書会
領域横断的なグループとして、議論の共通基盤を作るために、理論的基盤の形成につながるテクストや関連するケーススタディについての読書会を開催する。特に、コンテクスト言語学、科学技術社会論、エスノメソドロジーといった近年の社会科学の潮流にも配視した理論的基盤を形成する。

タイプ2.ゲストスピーカーを招いた研究会
考古学的実践に関わる多くの「ステークホルダー」について理解し、「ステークホルダー」概念を再考するために、様々なバックグラウンドの人々を招聘し、「考古学的成果」からは窺い知ることができない、かれらの考古学への関与や関心について理解し議論をおこなう。これにより、専門家と非専門家の間の議論をオープンにし、考古学的知識の生産における個々の役割について、より理解することができるだろう。招聘する人々として、芸術家、ジャーナリスト、政府関係者、政治家、ボランティアガイドなどの、考古学に関わる多様な分野の人々を予定している。

タイプ3.共同研究グループメンバーがスピーカーとなる研究会
研究成果報告書の執筆を目指し、共同研究メンバーによる個々の研究発表をおこなう。各自が2回行うのが理想的である。1回目は各自の専門フィールドについての研究発表である。2回目の研究発表では、上記タイプ1・2での議論を踏まえた上で、各自が、自身の研究を「考古学の民族誌」という理論的基盤、研究目標に沿って提示する。
本研究には文化人類学、考古学、遺産マネジメント、博物館学、植物考古学、アイソトープ分析その他の専門家が参集する。参加者のフィールドは北中南米、ヨーロッパ、中東、東南・東アジアおよびオセアニアをカバーしている。多様な研究領域・フィールドにおいて、考古学的知識はどのように、どこで、なぜ生み出され、消費されるのかについて、豊富な示唆を提供するだろう。

【館内研究員】 関雄二、寺村裕史、野林厚志、ピーター J. マシウス
【館外研究員】 石村智、市川彰、岡村勝行、サウセド・セガミ・ダニエル・ダンテ、渋谷綾子、寺田鮎美、中村大、松田陽、溝口孝司、村野正景、山藤正敏、吉田泰幸、米田穣
研究会
2015年10月17日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
ジョン・アートル(金沢大学)「共同研究の概要」
メンバー自己紹介
松田陽(東京大学)「自著解題:『実験パブリックアーケオロジー(第1・2章)』」
2015年10月18日(日)10:30~16:00(国立民族学博物館 大演習室)
吉田泰幸(金沢大学)「縄文と社会運動」
読書会「Bruno Latour 科学論の実在-パンドラの希望 第2・3章」司会:石村智(東京文化財研究所)・山藤正敏(東京文化財研究所)
今後の予定について打ち合わせ
2016年2月13日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
ジョン・アートル(金沢大学)・石村智(東京文化財研究所)
浅川滋男(公立鳥取環境大学)「建築遺構の復元に関する諸問題」
安芸早穂子(復元画家)「復元絵画について」
石村智(東京文化財研究所)「修復とオーセンティシティ:カンボジアの事例」
2016年2月14日(日)10:30~16:00(国立民族学博物館 大演習室)
ジョン・アートル(金沢大学)Prehistoric Building Reconstructions in Japan.
寺田鮎美(東京大学総合研究博物館)「博物館と複製メディア」
総合討論(今後の予定について打ち合わせを含む)
告知
研究成果

共同研究会第一回は、「考古学の民族誌」が目指すべき方向、方法論、立ち上げの背景について、メンバー間の共通理解を形成することが目的であった。代表者であるアートルの趣旨説明、松田による本共同研究に関連する自著の一部解題、吉田による「考古学の民族誌」ケーススタディの紹介、理論的基盤形成に欠かせない重要文献の石村・山藤による解題、以上4つの内容で構成され、それぞれの内容に関する議論も活発に行われた。
共同研究会第二回は、「考古学における復元と表象」と題し、2名のゲストスピーカー(浅川滋男・鳥取環境大学、安芸早穂子・復元画家)による発表と、3名(石村・寺田・アートル)による研究発表、および復元とオーセンティシティに関する2本の文献の解題(司会:石村)によって構成され、考古学の復元におけるオーセンティシティの問題や、それに係る社会的状況についての分析および議論をおこなった。