国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「コラム」:ベトナムにおける日本イメージの消費 さむらい・りきし@ベトナム

佐藤まり子

[写真1] サムライSamurai
[写真1] サムライSamurai
[写真2] リキシLuc Si
[写真2] リキシLuc Si
「サムライ」、「相撲」が、日本文化の象徴として海外の社会に知られるようになって久しいが、残念ながらベトナムではそれほどメジャーなものではない。むしろ「日本」を表象するのは、ホンダ、ミツビシ、ソニーといった、大手の自動車メーカーや家電メーカーである。しかしある日の昼下がり、涼をとりにスーパーに入った筆者は、驚くべき商品を発見した。それは飲料コーナーの一角に置かれた「精力」ドリンク、その名も「Samurai(サムライ)」[写真1]と「Luc Si(リキシ)」[写真2]である。「サムライ」は、コカ・コーラボトラーズ・ベトナムが、「リキシ」はベトナム南部にある会社が生産している。そして前者は髷を結び、太刀をたてにかまえた「サムライ」が、後者にはさわやかに親指を立てたポーズをとる、短髪のレスラーとも思しき「リキシ」が、缶の表にプリントしてある。どちらも高さ10センチ程度、金色の缶入り飲料で、上半身裸、筋骨隆々な男性である点がやけに目をひく。

ベトナム語には、「武士」という単語があるにも関わらず、あえて「サムライ」と銘々し、一応「サムライ」風ともいえるイメージキャラクターを図柄として取り入れているのは、コカ・コーラのお膝元アメリカでの日本文化に対するイメージが影響しているのであろうか。「リキシ」はというと、ベトナム語では重量挙げ選手といった強健な男性を意味しており、決して「相撲」レスラーを指すわけではないが、漢字表記すると「力士」となる点で、その背景にある言語文化的な相違に面白みをおぼえる。

ちょっと不思議なこの2缶が一般のベトナム人の間で日本文化に結び付けられるのは、遠い道のりのような気もする。肝心な中身であるが、日本にもありがちな、多少薬品ぽく、つくられた感じの味がする黄色い飲み物となっている。「マッチョ」な自分を夢見て、ウエストに手をあてグビグビとこれを飲み干すベトナム人男性を想像してしまうのは、筆者だけだろうか。